わかうみたろう

アントニー・ガウディーのわかうみたろうのレビュー・感想・評価

アントニー・ガウディー(1984年製作の映画)
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 バルセロナに旅行に行ったとき、ガウディの作品がいたるところにあってこんなところで生活したらきっと毎日明るく過ごせるだろうな、とのんびりと歩き回っていた。武満徹の神秘的な雰囲気を醸す音楽との組み合わせにはそれ故始めは馴染めなかったのだが、ガウディの作った自然有機的な光と石の線を見続ける内に、次々と映される作品、建物の部分を捉えるこの映画自体が一つの教会を創り出しているような感覚を覚え始めた。言葉ではないメッセージを発している、不思議で別世界が生活のレイヤーと重なって存在するような特別な時間体験であった。
 石柱の間を子供がローラースケートで自在に回っているカットはふと羽音が聞こえて振り向くと一羽の鳥が池から羽ばたいていったのじっと見つめていた時の、あの突然の沈黙が持つ瞬間の芳醇さを思い出させた。バルセロナへの旅行の記憶だけでなく、あらゆる記憶がこの映画と繋がりそうで、普通のドキュメンタリーならあるはずのナレーションがない今作の不完全さ、若しくは余白は、最後に話があったガウディのサグラダ・ファミリアについての考えと共通点があるように思える。サグラダ・ファミリアの部分部分全ては木の枝のように全てが繋がっている。完成してもまた別の建築家が新しいものを繋げることがサグラダ・ファミリアの基礎、という思想をそのまま写したこのドキュメンタリー作品は傑作と呼ぶのはふさわしくないかもしれないが、映画が持つ空間性を存分に発揮し、贅沢な体験を与えてくれた。