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舞姫のodyssのレビュー・感想・評価

舞姫(1951年製作の映画)
3.5
【戦後間もない時期の鎌倉・中流上層家庭】

タイトルだけ見ると森鴎外の原作かと思ってしまいそうですが、そうではなく、川端康成の原作。そして岡田茉莉子のデビュー作でもあります。

戦後間もない頃の鎌倉が舞台。戦前からの地主の娘である婦人(高峰三枝子)は、昔自分の家の書生で今は大学教授になっている夫(山村聡)との間に子供をふたりもうけていますが(その一人が岡田茉莉子)、夫が家計にお金を入れてくれないので、バレエを教え、また土地を切り売りしたりしながらなんとか体面を保てるような生活を送っています。娘の岡田茉莉子も母からバレエを教わっています。

この作品はそうした、夫婦の不和を抱えながらなんとかやっていっている鎌倉の中流上層家族の姿を描いています。戦後間もない頃で、家計に窮した高峰三枝子に不動産屋が土地の有効利用を提言してくる場面もあり、またこの不動産屋が高峰三枝子に横恋慕していて、ちょっと桜の園的な雰囲気も感じさせる映画です。

また、高峰三枝子にはそれとは別に古くからの男友達(二本柳寛)がいて、実は若い頃から相思相愛だったものの、事情があって結婚はできなかったという設定。彼は一度は別の女性と結婚したものの、一児をもうけたあと死別。高峰三枝子が夫とうまくいっていないことは知っており、改めて求愛しています。

そうした人間模様を淡々として描く成瀬巳喜男の腕の冴えが、見ていると少しずつ染み入るように分かってくる。最後のあたりはやや強引に納めた感もありますが、これは原作の問題かもしれません。

絶対に平和にならなければ結婚はしない、なんて生硬なセリフを岡田茉莉子が言う場面も、戦後6年という時代を考えると特に気にならない。中年のしっとりした美しさを見せる高峰三枝子と、当時18歳だった岡田茉莉子の、初々しいと言うよりすでに色気をたっぷり含んだ表情やバレエシーンも見ものです。
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