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最後の盗みのTnTのネタバレレビュー・内容・結末

最後の盗み(1987年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

 ストップモーションアニメを手がけるチェコの作家イジーバルタ。今作は実写だが、培われたコマ単位での操作が随所に施されているのがわかる。そして、チェコ作家特有のあの虚実が混ざり合う感覚の面白さも堪能できる。

 人物の動きは静止したりコマを早めたり遅めたりすることで独特な動きをする。それはまるで人を人形のように撮ってしまうことなのである。あとからフィルムに直で着色されたであろうあの顔色も、人形ぽさを増させる。顔色は明るく色付けされていっているのにも関わらず、人形味が増し、むしろ人間味がなくなって不気味だ。それはある意味、シナリオ通りか。何故なら、彼は吸血鬼に血を吸われようとしているのだから!にしても、不意に固まる画面に固定された一瞬だったはずの人間の顔って、興味深いな…。流れる時に隠されていた本性が、まるで垣間見えるようだ。

 洋館に吸血鬼、古い貴族のような姿でほぼ人間、しかし不気味。ベルイマンの「狼の時刻」を思い出す。こういうファンタジーはチェコが謎にずっと強い。にしても、血を吸うのは噛み付くとかではなく、ちゃんと医療器具で血を抜くという、現代的な感覚としての恐怖を煽ってくる。がめついやつは、血を抜かれるよ!的教訓ということで良いのかな笑。とはいえ、強盗にしては欲求も満たされ、手厚い最期を用意してくれるものだとも思った。

 赤い色彩が鮮烈に残る。音楽がまた”その気”にさせる。終始、死への甘い誘惑の漂う作品だった(血の気が引いて、拍手の音が聞こえる、なんて良い死に方)。
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