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流れるのtackyのレビュー・感想・評価

流れる(1956年製作の映画)
4.5
男に弄ばれ、世間に翻弄され、まるで川の流れの様に、逆らえずに衰退していく老舗の花街の芸者置屋を、当時の市井の風情を入れながら、家政婦が来て去る(おそらく)までの短い真夏の期間だけ描いた、珠玉の作品である。

山田五十鈴演じる女将さんは、人が良すぎる。
すでに置屋は抵当に入っていて、酒屋のツケも払えない。
それでも家事も何も出来ないので、田中絹代の家政婦を雇い、賃金を払う。
皆んなに、その人の良さに付け込まれる。それを、家政婦の田中絹代の視点から描く。

ラストシーン、最後の手段として置屋を売った相手の花街の大物姉さんが、表面上はそのまま居ても良いとしていて、裏では追い出して旅館にでもしようとしていて、田中絹代にあんただけ働かないかと問いかける。丁重に断わるが、彼女はもうこの置屋はダメだと悟り、去る心づもりをする。

何も知らない、山田五十鈴と一人だけ芸者として残った杉村春子二人で三味線を弾く、それに家計の足しにしようと、娘が踏むミシンの音が絡まり、それをボンヤリ聞く田中絹代の表情で終わる。

溝口なら、圧倒的な存在感で描くであろう田中絹代を、さりげない家政婦として、この物語の推移を見守る天使の様な描き方をする成瀬は、やはり天才としか言いようがない。
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