Tully

お茶漬の味のTullyのネタバレレビュー・内容・結末

お茶漬の味(1952年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

こちらは 「お見合い」 というより寧ろ 「強制結婚」 をさせられた、形だけの夫婦、その妻たちが主役の映画です。離婚する程の悪い夫たちではないので、誰もが適当にうまくやっているのですが、毎日、働いている夫に対して、愛どころか、敬意もなく、嘘をついては勝手な事をして、陰では好きな事を言って暮らしています。そんな叔母様たちの本性を知り尽くした独身娘は、お見合いも結婚も拒絶して当然です。この若い娘はそんな熟年者たちの中でも、一番望みが持てそうな優しい叔父様を慕い、その目に狂いはなく、この叔父様夫婦が見事に愛を芽生えさせ、若い世代だけではなく他の愛のない夫婦たちの心にも、波紋を投げかけて終わっています。男と女は、出会って恋をして結ばれた場合、幸せな結婚生活を始めますが、それでも何年か経つと、相手の嫌な所が目についたり、気に障ったり、とうとう喧嘩になったりもします。もともと好きでもない相手と、夫婦として生活させられる男女は、恋心もトキメキもないまま、愛を生み出そうというのですから、至難のわざです。主人公夫婦は、妻が言いたい事を言い、夫が耐え続けるという関係で、お茶漬けは、夫が子供の頃から大好きな古里の食べ方なのですが、育ちの良い妻が 「見るのも嫌だ」 と禁止するので、我慢しています。本作は、男と女の関係に留まらず、人としての相手への思いやり、そんな心がじわじわと育つ様を、この夫婦の中に見せてくれます。お互い、特別な感情もなく、ただ一緒に暮らしているとはいうものの、長く連れ添っただけに、すれ違いや不在によって、ふと胸に迫ってくる 「一人になった時の寂しさ」 と、思いがけず再会できた時の 「仄かなウキウキ感」 そして、人と人の気持ちを繋ぐ 「食」 の力、こういった生活の面白さや美しさを改めて感じさせてくれます。何不自由なく遊んで暮らしながら、不満を募らせていた妻が、夜遅く帰宅した夫と二人で台所に行き、今までメイドたちに全てしてもらっていた為に、お茶碗を探し当て、お箸を見つける。ぬか味噌に手を突っ込み、お漬け物を刻む。こんな、妻として当たり前の事を、楽しく出来た時に初めて、夫が好きなお茶漬けを美味しいと思える。今までの自分を謝る。そんな可愛い妻を待ち続けていた夫の喜びは、妻が女友達に語るお喋りの中でしか出てきません。夫の悪口ばかりを言っていた、このわがままな妻が、今や、愛しい夫の話をもっとしたくて仕方がありません。「今まで嫌だと思っていた事が、全部好きになってきた」 だなんて、恋をしているのです。これは、結婚後に始まった恋のお話で、そこには静かな感動があります。現代社会で、結婚生活に疲れた離婚寸前の夫婦が、もし、この映画を鑑賞できる機会を持てたなら 「また頑張りましょうか」 という気持ちになれるかもしれません。せっかく生まれてきたのだから、一度しかない自分の人生、そして相手の人生、同じ環境でも、心を幸せに生きていたいものです。
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