亘

おばあちゃんの家の亘のレビュー・感想・評価

おばあちゃんの家(2002年製作の映画)
4.1
【1人では生きていけないから】
ソウルに住む小学生サンウは、山奥に住む祖母の家に1人預けられることになる。自己中でゲーム好きのサンウは、口のきけない祖母に暴言を吐いたりわがまま放題だが数々の事件から徐々に態度を変えていく。

自己中でわがままな少年とひたすら健気なおばあちゃんのやり取りを描いた作品。デコボココンビのやり取りで主人公が成長するストーリーはよくあるし、サンウが変わることは分かり切っている。それでもサンウの態度の悪さとおばあちゃんの健気さ・人の良さが度を越しているから思わず見入ってしまう。直球でひたすら純度の高い作品。

最終的にサンウは成長するわけだけど、複数回ある事件でなかなか変わらない部分がリアルな気がする。最後の大事件まではジャブのようなもの。ジャブ程度では、もちろん心境に変化は会っても根は変わらない。それでも最後の1人ではどうにもできない事態があってはじめて自分の無力と周囲(特におばあちゃん)の優しさを知るのだ。

[初めての環境]
サンウは母親に連れられ山奥のおばあちゃんの家に預けられる。そこは水道もないし周りに店もない。テレビも映らなければ家の中に虫もいる。サンウにとって初めての環境。娯楽のない環境と家の古さが気に入らず、サンウはおばあちゃんが言い返せないのをいいことに「バカ」や「汚い」と心無い言葉を浴びせる。それでいてひたすらゲームするのだ。序盤はひたすらサンウにいらいらさせられる。

[ゲームの電池]
そんな中で1つの事件が起こる。サンウの携帯ゲーム機の電池が切れたのだ。なんとしてもゲームで遊びたいサンウは電池を買うお金をせびり家中探すがどこにもない。おばあちゃんへ嫌がらせに靴を隠したり、壁に「バカ」と書いたりひたすら自己中。

ついにはおばあちゃんのかんざしを取って売りに行こうとする。町の人に聞きまくって田舎町を歩き回るのだ。知らない町を歩き回り、お店の人にたたかれ、果てには迷子になって知らないおじさんに送ってもらう。結局電池は見つからなかったが、サンウにとっては初めての冒険だった。

[ケンタッキー・チキン]
ある日おばあちゃんから食べたいものを聞かれたサンウは「ケンタッキー・チキン」と答える。もちろん近くにKFCはなく、おばあちゃんは生きた鶏を1羽丸ごと買ってきて水炊きをつくる。そんな努力なんか知らないサンウは、おばあちゃんに反発して食べないのだった。とはいえお腹がすくから隠れて食べてしまう。結局自分では何もできないのだ。

ただ雨の中買い物に行ったおばあちゃんが体調を崩してしまう。この時の看病は、サンウが初めて直接見せる優しさだろう。ついに彼は変わり始めたのだ。

[市場]
サンウはおばあちゃんが野菜を売りに行くのについていく。話せないし読み書きもできないおばあちゃんは、野菜を売るにもバスに乗るにも苦労する。それでも周囲から助けられるし、知っている人からはひたすら支えられる。まさにおばあちゃんの人徳を感じる。

サンウもそんな様子を見ているのに、気になる女の子ヘヨンに「このおばあちゃんの孫」と思われたくなくておばあちゃんを突っぱねる。好きな子の前でダサいところを見せたくない心理なんだろうが、この仕打ちはひどいし結局はおばあちゃんなしでは何もできない。きっかけはともあれ、市場から帰ってきたおばあちゃんを迎えに行き手伝うシーンもまた大きな契機といえるかもしれない。

[暴れ牛の噓]
とはいえサンウはまだ自己中である。サンウにとって気になるヘヨンと仲の良いチョリは邪魔者だった。チョリを痛い目に遭わせるため、サンウは柴刈り帰りのチョリに「暴れ牛だ」と嘘をつく。実際には牛がおらず、チョリは怒るわけだけどサンウはふてくされて謝罪の言葉もなく逃げる。結局根は自己中なのだ。

[怪我]
しかしそんなサンウに大事件が起こる。ヘヨンに会いに行く日、サンウは手押し車に乗って足を怪我。さらには暴れ牛に追われてしまう。ここでバツが悪いのは、チョリに助けられること。チョリを無視したばかりか、サンウが坂道で転んで絶体絶命のところを救ってくれたのだ。その前の嘘もありながらサンウを許すチョリの対応も大人だけどサンウとしてはとんでもなく非力を感じる。

さらには足を引きずって帰る途中でおばあちゃんの優しさを感じて泣きつく。彼は自己中であったけどチョリもおばあちゃんもそれに構わずサンウに優しく接していた。彼は本当に痛い目に遭ってついに周囲の優しさに支えられていることに気づいたのだ。

[改心]
ソウルに帰る日が近づくと、サンウはおばあちゃんへの恩返しを始める。手紙の書き方を教えたり、ひたすら糸を通した針を作ったり。サンウに考えられる限り、出来る限りの事なのだろう。手紙を教えながらの涙は本当のサンウの成長を感じた。

さらにバスの見送りをしたおばあちゃんに「ごめんね」の手話をする。それまでは恥ずかしさもあって直接伝えられなかったのだろう、初めて謝罪を、それでも照れ隠しで手話でするのだ。これこそようやくサンウがおばあちゃんに示した本心なのだけど、その後映るポストカードも印象的。「体が痛い」よりも「会いたいよ」が多いのもサンウの気持ちなのだろう。

サンウは短期間でたくさんの冒険と痛い経験、後悔をした。そしてきっとこの世界では1人で生きていけないことを学んだだろう。見る前の想像以上にサンウの成長が爽やかに感じる良作だった。

印象に残ったシーン:サンウが夜にポストカードを作るシーン。サンウがバスで手話をするシーン。
亘