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クロノスのnetfilmsのレビュー・感想・評価

クロノス(1992年製作の映画)
3.8
 1536年、ひとりの錬金術師によって作り出された金色の奇妙なスカラベ。「クロノス」と呼ばれるそれは永遠の命をもたらす謎の精密機械だった。ウンベルト・フルカネリは迫害を恐れメキシコへ渡り、永遠の命を得て潜伏していた。それから400年後の1937年、ある建物の天井が崩壊し、骨組みは鋭利な刃物となり、ある被害者の心臓を突き刺した。男の最後の言葉はスホ・テンポーレ(時は死なない)だった。それから数十年の歳月が経過した現代、古物商を営む初老の男ヘスス・グリス(フェデリコ・ルッピ)は、タンゴ教師で愛妻のメルセデス(マルガリータ・イザベル)、無口な孫娘アウロラ (タマラ・サナス)と今日も3人で朝ご飯を囲む。息子でアウロラの実父は肺ガンで既に他界していた。アウロラと仲良く骨董店に出勤した男は、まるでミイラのような顔をした怪しい客を発見。彼はある骨董の目をくり抜いて立ち去る。翌日、そのくり抜かれた目からゴキブリが溢れ出るのを発見したヘススは、売り物の天使像の解体を試みる。そこにはクロノスと呼ばれる金色に輝く奇妙な金属機械を見つけた。だがクロノスを動かすと突然動きだし、ヘススの手に食い込むと長い針を刺し液体を注入した。一方その頃、不死を得ようと長年クロノスを探していた病床の大富豪デ・ラ・グァルディア(クラウディオ・ブルック)は、甥のアンヘル(ロン・パールマン)からついにクロノス発見の報せを受ける。

 ヘススは急逝した息子から孫娘アウロラの未来を託され、この地でしがない古物商を営んでいるのだが、ある日、天使の像を手に入れたことから平凡な生活は一変する。中世にとある錬金術師が作ったとされるクロノスは黄金に輝く虫のようにも見えるが、ぜんまい仕掛けで左右にある針が出て来て、宿主の身体に侵入する。呼吸する真っ赤な臓器の時計仕掛けの動きは、吸血鬼映画の変奏として一際異彩を放つ。老い先短い老人だったヘススはやがて若返り、血に対する抑えきれぬ欲望を露わにする。クラブ・ティーグレの新年のパーティ、血を吐いた男の姿にヴァンパイアとなりつつあるヘススは欲情する。トイレの床に飛び散った血液を舐める場面は、吸血鬼映画屈指の名場面である。本来なら吸血鬼は異性の血を吸うことで生き永らえるのだが、美女の血を吸うはずのヘススは男の血で喉の渇きを潤す。それはクライマックスへの吸血鬼の葛藤にも繋がる。奇才ギレルモ・デルトロ監督の長編デビュー作は、永遠の命を賭けた異色のヴァンパイア劇となる。ヘススが偶然手に入れたクロノスを奪いに来るのは、瀕死のグァルディアではなく、彼の甥のアンヘルというのも面白い。デルトロの今作でのロン・パールマンとの出会いは、後の『ヘルボーイ』に帰結する。クライマックス場面、屋上で追い詰められたヘススとアンヘルの決闘シーン、「DE LA GUARUDIA」と書かれたネオン・サインの造形、天井に開けられた無数の光、無口な孫娘オウロラの描写、クロノスという金色の丸みを帯びた物体への思い入れはデルトロの早熟な作家性を浮き彫りにする。
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