雨のなかの男

ウェンディ&ルーシーの雨のなかの男のネタバレレビュー・内容・結末

ウェンディ&ルーシー(2008年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

U-NEXTで鑑賞。前作二作はまぎれもないロードムービーの傑作だったが、本作ではそのロードムービーの考察をさらに深めた。停滞の旅の物語とでもいうべきか、ロードムービーにおいて最も象徴的な車は終始止まっており、街から出ることすらなく、動性を失っている始末。とはいえこれをロードムービーではないと言ってしまうのは、なんとなく面白くない。ケリー・ライカート監督が「旅の途中であること」や自動車という要素を入れて目配せしている以上、本作をロードムービーの観点から観ていくことのほうがやはり圧倒的に面白い気がする。この停滞の物語は、とにかく主人公をメランコリックな状況に追い込んでいく。本作におけるロードムービーの考察とは、ある意味逆説的で、現実逃避の手段を奪われた人はどうなるかを描いている点にあると思う。これが単なるドラマじゃないと言えるのは、物語が停滞を許さず前進を強いている点にある。これが定住する流れであれば話は違った。ところが本作は主人公が見知らぬ街で前進する術を失い、現実に打ちひしがれながらも、そこで生活基盤がない以上、立ち止まることを許さず、街を出るしかない状況を描いている。
ケリー・ライカート監督は『リバー・オブ・グラス』と『オールド・ジョイ』で非現実的な、ある種の幸福な旅から現実的な日常生活に引き戻す強烈で残酷な引力を描いて見せた。であるならば本作は日常から非現実な旅へと駆り出すまでの過程を描き、現実を置き去りにしないと始まらない旅の物語であるといえる。ここでいう彼女の現実の象徴は貧困であり、ワンちゃんに集約される。金持ちの家を前にルーシーを置き去りにする場面はなかなか酷だった。『リバー・オブ・グラス』では主人公の家庭が、『オールド・ジョイ』では妊娠した妻が置き去りにされるべき現実の象徴だったように思う。ケリー・ライカート監督のロードムービーによるロードムービー考察(のような試み)は今のところどれも面白い。
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