エイブラムス監督のSF大作…ではなくて、エネルギッシュな傑作『アンダーグラウンド』を撮影したクストリッツァ監督作品。
本作は、クストリッツァ氏がディレクターとしてではなくギタリストとして参加している『エミール・クストリッツァ&ノー・スモーキング・オーケストラ』のライヴやバックステージなどをミックスしたドキュメンタリーのようなムービーなんですけども…って片仮名が多い愚駄愚駄な文章でスミマセン。
立ち位置としては、他の映画が“試合”ならば本作は“ホームラン競争”みたいなもの。つまりは、監督のファン向けの作品…なのですが、そんな単純に割り切れないのがクストリッツァ流です。
バンドのメンバーに質問をしながらも、戦禍に疲弊した街並みや、ネコやらアヒルやらの映像を挿し込んだり、監督と監督の息子のじゃれ合いを挿入したり、白黒映像のコントだとかホームビデオを混ぜたり…と相変わらずやりたい放題のカオスが満載。
また、一般的な価値観ならば「没にするだろうな」と思われる場面もしれっと入っているんですね。というか、余りにも飾らなさすぎるので、「逆に演出しているんじゃないか」なんて疑う始末。
例えば、ライブ中に脱臼して「医者を呼べ」なんて言っていたりとか、ライブ後に「出来が悪い!」とケンカ直前になっている雰囲気を映したりだとか、打ち上げで呑んでいる最中に秘密警察が踏み込んできたりだとか…。えー。これ全部マジもんですか?
いやあ。もうね。言葉どおりに“世界が違う”…って思ってしまうくらいに。うん。根底に流れるグルーヴからして全然違う気がします。ユーゴスラビアの過酷な現実と、それを吹き飛ばすエネルギッシュな音楽。これを並列させる…という発想からしてね。スゴイです。これはね。一見の価値はあると思いますよ。
でも、音楽って好き嫌いが顕著に出る分野ですからねえ。しかも、アボガドよりも濃厚なクストリッツァ監督の作品ですからね。受け付けない人は最初からダメでしょうね。
ですから、先に監督の作品…『アンダーグラウンド』や『黒猫・白猫』、『ライフ・イズ・ミラクル』などに触れてですね。「面白かったから監督の他の面も観たい!」なんて思ってから鑑賞した方が良いと思います。
ちなみに、僕も監督の作品は好きなんですけど、音楽がメインの作品だと物足りなく感じました。ネコが食パンを食べたり、アヒルがタオル代わりになったり、ガラスが割れたり、トロッコとか汽車とかが走り回ったり、銃声が鳴り響いたり…という物語と映像と音楽が渾然となった状態が好きなんだと。うん。改めて実感した次第です。