蓼食う虫

バベットの晩餐会の蓼食う虫のネタバレレビュー・内容・結末

バベットの晩餐会(1987年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

食と信仰をめぐる心温まるおとぎ話。
伏線部分が結構長く、人によっては少々忍耐が要るかも。

デンマークの貧しい片田舎に住む老牧師と二人の娘。敬虔な牧師亡き後、信者らは故人を偲んで従前どおり牧師の家に集っては、時に諍い合いながらも歌や祈りを捧げる日々を送っている。

姉妹がうら若き乙女の頃に出逢った紳士たち。一人はうだつの上がらぬスウェーデンの士官で、もう一人はフランスの陽気な声楽家。男たちは美しい篤信家たちへの叶わぬ片思いを各々断念し、その地を足早に去って行ったのだった。

時が経ったある雨の日の夜、革命により夫と子供を殺された女バベットが突然姉妹を訪ねてきた。声楽家からのたっての言付けが受け入れられ、バベットは無給の家政婦として屋根裏に住まうことに。

それから14年。友人が買ってくれた宝くじが当たり、バベットの懐には思わぬ大金が転がり込んできた。姉妹はちょうど牧師の生誕100周年を祝う食事会を予定しており、バベットは腕によりをかけた料理で信者たちをもてなしたいと提案して出かけ、やがて新鮮な食材を荷台に山積みして戻ってきた。

海亀やらウズラやらと、見たこともない食材が生きたまま捌かれると知りカルチャーショックを受けた人々は、晩餐会では味わうことを自制して只食べる行為にのみ専念しようと示し合わせる。

その後大成したかつての士官(現在は将軍)夫妻も招くこととなり、バベットは12人分の料理を活き活きと手際よく作り振る舞う。人々は同じテーブルに就き、もはや官能の域に至る絶品料理の数々に内心驚嘆しつつも、その味をパリで食した記憶のある将軍以外は密かに舌鼓を打つ。
一様に年老いた彼らにとって、それはやがて神に召される前の、文字どおり最後の晩餐と呼ぶにもふさわしい甘美なひとときなのであった。

会がはねて別室でくつろいだ後、信者たちは妹の弾くピアノと美声に合わせて歌う。

我らが命 やがて尽き
夜が昼に取って代わる
世の栄光も最後の時を迎え
日は短く 過ぎゆく時は速い
神の光よ 栄光なれ
我らを天に導き給え

将軍が姉に抱き続けてきた永遠の想いを高らかに宣言して去った後、残る信者たちもおいとまし、最後に家の前にある井戸をぐるりと囲み回りながら名残惜しげに歌い、晩餐会はお開きとなった。

時計が告げる 過ぎゆく時を
永劫の時が近づいてくる
大事なこの時を捧げよう
力の限り神に仕えるために
真の我が家を見出さん

もてなしに深く感謝する姉妹に、バベットは自分が将軍も絶賛していたパリ随一の名レストランの料理長その人であるとを明かす。
大金を手にして再びパリへと戻るのかと姉妹に問われると、くじで当てたお金はすべて晩餐会の食材に費やし、フランスへ戻るつもりはないと決然として答えるバベット。
これからも三人で慎ましくも穏やかに暮らすことを暗示させつつ、窓辺の蝋燭がふっと消されて物語は終わりを告げる。

個人的には、料理そのものは想像していたよりも特段美味しそうには見えなかった。昨今の映"える美しい写真に慣れ過ぎたせいもあるかと思うが…。
食事のシーンはBGMも入らず、時に将軍の賞賛の声が響く以外は皆黙々と食べていたのが、いかにバベットの料理が美味であるかの証左となっており、却ってよかった。

臨時の給仕役を立派に務めた少年が、宴のあと空になった部屋にスッと入り込み、将軍の飲み残した上等な赤ワインをグラスごと一気に飲み干すシーンが微笑ましかった。御者が台所で料理をつまみ酒を飲むのも。何やかや言って彼の役回りが一番気楽で幸せそう。

あと「貧しい芸術家はいません」というバベットの至言。真の芸術家とは感性が満ち溢れた心豊かな人を指すのであり、金銭的・物質的なことがらには影響されないということか。貧すれば鈍するのもまた事実ではあるが…。
一時は世界を制覇した国家を数多く有するヨーロッパだが、普段は質素な暮らしをする人が日本よりも遥かに多い印象を受ける。彼らはきっとこうした矜持を内に秘めているのだろうと思った。

欧米には寄付の文化が根付いている理由も少しわかった気がする。天国に持って行けるものは、生きている間に与えたものだけだという考え方があるのか。

デンマーク語による女性のスローなナレーションも見る者をほっこりさせてくれ、この物語の寓話性を高めることに一役買っていると感じた。

1987年の作品。ちょうど四半世紀を経ており、登場人物は子役の一人を除き、みな物故者となっているだろうな…。ひょっとしたらバベット(ステファーヌ・オードラン)は?と思ったが、Wikiによると2018年に85歳で天に召されていた。
「天国であなた(バベット)は至高の芸術家になる。それが神の定め。天使もうっとりするわ」。何年たっても見る者を感動させてくれる銀幕に永遠の姿を刻んで皆旅立ったのか。敬虔な彼らと違い昇天の保証はないが、遅かれ早かれ我らもまた。

親から「よかった〜」と長年聞かされており、いつかはと思いながらも見れずにいたが、アマプラの「見放題が終了間近の作品」表示に押されてようやく観了^^; やっぱ先延ばしはイカンわ〜。

まだまだ見落としたところがたくさんあると思う。また今度ゆっくり味わいながら見てみたい。
蓼食う虫

蓼食う虫