デニロ

お吟さまのデニロのレビュー・感想・評価

お吟さま(1978年製作の映画)
4.0
1978年製作公開。原作今東光。脚色依田義賢。監督熊井啓。

中野良子のファンだったので当然観た記憶があるのだが、浮かんでくるのは志村喬の千利休だけだった。鑑賞記録を確認したら1978年に田舎で観ていた。なんと同時上映は『女王蜂』。5時間も映画館にいられるくらいに時間だけはたっぷりあった。でも、わたしは何者になるのだと、今どきの若者同様に焦りと不安に苛まれてもいたはずだ。

新文芸坐のチラシを見ていたら三船敏郎が太閤秀吉を演じているとあったので、その姿を確認したくなった。本作は、国立映画アーカイブのプリントで117分版。本作をネットで検索すると154分としか出てこないので、その記憶すらないわたしは、30分以上公開時のフィルムよりカットされていることに気付きもしなかった。岡田英二の小西行長などいなかったし、遥くららは3秒しか映らなかったのでその辺りがカットされているんだろう。

三船敏郎演じる秀吉が側女として仕えるように中野良子の吟と直接向き合う。天下人が何面倒くさいことやっているんだと思ったものだが、熊井啓も三船敏郎に中野良子を無理やり組み伏すことをさせるわけにはいかぬのであろう。尤も、城を建ててやる云々と品のないこと甚だしいのではあるが。

物語はその太閤秀吉が全国統一を果たしていくに連れて悲哀を覚える者多数で、そんな人々の中の千利休とその縁者に焦点を当てつつ、当時の日本国の国際的地位をも描いている、のだろうけれど、日活時代にウェルメイドな娯楽作品の脚本を手掛けている熊井啓。端正な依田義賢脚本を踏まえつつ、見せ場は見せ場として凝りに凝って見せつけます。吟がおもい人のキリスト者高山右近に会う場面に着ている美しい着物を観るだけでも、彼女の刹那的な愛の伝え方を知ろうというものです。また、屋敷の周囲を秀吉が向けた軍隊に取り囲まれた吟が戸口という戸口を駆け回るクライマックスの絶望感は悲しみの極致です。翻って、俗物として描かれている太閤秀吉の黄金色の着物も、三船敏郎が身に着けると実に堂々と立派に見えたりして、千利休の寂しい侘しいを以て美しいと思い満ち足りる思想の企図せぬアイロニーとなっている。

この頃の熊井啓監督作品は当時のわたしにはつらいものがあったのだが、改めて本作を観て映画とは総合芸術であると思わされた。

それにしても化粧気のない中野良子の美しさに目を瞠る。

新文芸坐 生誕90周年企画 熊井啓映画祭2021 にて
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