こたつむり

ザ・クラッカー/真夜中のアウトローのこたつむりのレビュー・感想・評価

3.9
♪ Get wild and tough
  ひとりでは解けない愛のパズルを抱いて

不器用な男のエレジー。
仕上げたのは『ヒート』のマイケル・マン監督。
いやぁ、さすがですね。むわっと刺激臭が漂って目に沁みるように男臭いです。

何よりも主人公のジェームズ・カーンですよ。
身体中にみっしりと生えた体毛が示すとおりにワイルドで、女性の口説き方なんてストレート過ぎて「そんなんで良いのか」と朴念仁の僕でも思うレベル。

でもねえ。それが良いんですよねえ。
ところどころで明らかになる過去からして、世知辛い風に翻弄されながらも、自分のプライドだけで生きてきたのがクッキリと分かるのです。

そして、その足跡を具現化する音楽。
現代の耳で聴くと陳腐なシンセサウンドですが、これが一種の緊迫感を醸成していて、なかなか味わい深いのです。それでいてクライマックスは鳴きのギター。このギャップがシビレます。

また、本作は“お仕事ムービー”の側面もありました…と言っても、彼の仕事は宝石泥棒。なので反社会的な場面が多いのですが…それでもググっと前のめりになるリアリティがあるのです。

裂ける鉄鋼。
飛び散る火花。
あなたは何処の鍛冶工ですか?と訊きたくなるほどに“道具”を使いこなすのです。後から知りましたが、本当の泥棒さんが監修しているとか。だから、リアリティがハンパじゃないんですね。

でも、これを映像化しても良かったのかな。
真似する輩が出るんじゃないでしょうか。
ただ“アレ”を真似するには確固たる技術が必要だから…素人には無理と判断したのかもしれません。

まあ、そんなわけで。
原題が『Thief』とあるように、泥棒さんの物語。なので、基本的には主人公に感情移入すべきではない…のですが、いつしか彼の生き様に心を寄せているはず。

それは、悪ではない悪が存在するから。
たとえ、非合法でなくても…過去のレッテルだけで判断するとか、裏金で状況を覆すとか、そんな輩に比べたら主人公は真っ直ぐ。そんな姿勢に惚れるのです。
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