まじさん

TIME/タイムのまじさんのネタバレレビュー・内容・結末

TIME/タイム(2011年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

時間どろぼうと、ぬすまれた時間を人間にとりかえしてくれた男の子のふしぎな物語。
これは、SFではなく現実。 この作品が扱っているのは権力と貧困、不老不死などの普遍的なテーマだ。 この映画では、寿命を通貨とした斬新な設定を見せている。25歳で老化が止まるので、成熟しているが、若さを保った容姿をしており、美男美女ばかりだ。年功序列もない。いつまででも若くあり続ける、理想的な世界だ。だが、生きる為には寿命を稼がねばならず、労働による時間の報酬を得るのだ。 ここでは絶対の権力者が長寿で、貧困層は短命という、恐ろしい世界を創作している。未来と言うよりは、別世界のファンタジーと見るのがいいと思う。だが、生活は現実世界に近い。奇抜なファッションもなければ、浮いて走る車もない。違うのは、時間=通貨と言うルールだけなのだ。 ここで描かれているのは未来や異世界ではなく、現代なのだ。 派手なアクションは控えて、この世界での残酷な現実を眈々と見せている。衣装や車などに、現実と大差なくしている事でもそれが分かる。 ミヒャエル・エンデの『モモ』でも、時間を奪う灰色の男たちが登場する。子供はたくさんの時間を持っていたが、大人になると、時間に追われ「時間がない」と漏らす。それは時間貯蓄銀行と名乗る、灰色の男たちに騙され、時間を奪われてゆくからなのだ。灰色の男たちは、奪った時間で生き永らえるのである。 この作品は、その『モモ』に着想を得たものだと思われる。更に 命を通貨とする事で、貧困層から命を吸い取って生きる富裕層の、 より残酷な図式を際立たせている。 現実に於いても、金は命に近いものになってきている。低所得者が増え、貧富の差が大きくなっている。それは巧みなシステムにより、労働者の上前をはねているからなのだ。権力者は、一人で何人分の命を搾取したのだろうか? これは現実社会に警鐘を鳴らしている物語だ。 『モモ』の灰色の男たちは、普段は目に見えないが、我々の住む世界では、普通に暮らしているのである。