櫻イミト

パットン大戦車軍団の櫻イミトのレビュー・感想・評価

パットン大戦車軍団(1970年製作の映画)
4.5
脚本のフランシス・フォード・コッポラなど7部門でアカデミー賞受賞。原題は「パットン(Patton)」。第二次世界大戦で良くも悪しくも名を轟かせた米軍のパットン将軍の実話人間ドラマ。監督は「猿の惑星」(1968)「パピヨン」(1973)のフランクリン・J・シャフナー。

スクリーンいっぱいの星条旗をバックにパットン将軍が演説する。「アメリカ国民は伝統的に戦いを好む」「醜いナチどもを大量に虐殺するのだ!」(実際の演説はもっと汚い言葉だったとのこと)。死ぬほど戦争が好きで歴史上の英雄に憧れるパットン将軍は、日頃の暴言や部下への残酷な指導が問題視されたが、戦場ではナチス壊滅に向けて目覚ましい功績をあげた。。。

大傑作。「パットン大戦車軍団」などという下らない邦題のおかげで観る機会を逸していた。

パットンの二面性を描くことで、戦争と人間について深く考察している。戦争の土俵では、パットンの活躍が無ければナチスに敗北していたかもしれず英雄と称えられている。しかし道徳的には、戦争後遺症の兵士を腰抜けと侮辱し殴打するなど人望のない人間だった。映画は史実に基づいてニュートラルに描いていく。

前半はパットンの強烈すぎる個性の描写に、タランティーノ作品や「スターシップ・トゥルーパーズ」(1997)などのブラック・コメディ映画を連想したがそうではなかった。戦争シーンも本格的に至って真面目に作られた人間ドラマであり、取り上げた対象が笑ってしまうほど極端な人物だったということだ。

人間ドラマとして中立的な立場を守ってはいるものの、ベトナム戦争と反戦運動の最中である1970年に公開された本作の立ち位置は、間違いなく”反戦”と言える。後の「地獄の黙示録」(1979)を準備した作品と位置付けられると思う。コッポラは本作で名をあげ2年後に「ゴッド・ファーザー」(1972)をものにする。

※本作は元々はウイリアム・ワイラー監督の企画だったのがやれなくなり、ジョン・ヒューストン監督が撮る予定だった。ところがこれもやれなくなり、「猿の惑星」が成功したばかりのフランクリン・J・シャフナー(当時50歳)に決定。結果、アカデミー作品賞、監督賞をもたらした。

※「パットン」ではなく「パットン大戦車軍団」とした邦題がつくづくダメだと思う。タイトルに惹かれて鑑賞した戦争映画マニアからは、戦闘シーンが少なく戦車のデザインが当時と違うとマニアックなネガティブ評価を受けている。一方、個人的に意外なのは、本作を”戦争翼賛””米国至上主義”の映画と捉える評価だ(特に日本語使用レビュアー)。本作に対するレビューは民度を測る上でとても興味深い。
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