ノットステア

殺人狂時代のノットステアのレビュー・感想・評価

殺人狂時代(1967年製作の映画)
4.5
ナンセンスに徹底したスリラー映画by都筑道夫





○きっかけ
小学生の頃、学校の図書室ではやみねかおる『都会のトム&ソーヤ』をオススメしていた。読んでみたらハマった。いまだに完結していないので、買い続けている。
そのはやみねかおるさんがオススメしていた本の一つが都筑道夫『なめくじに聞いてみろ』だった。それを知ったときは絶版だったのでいつか読みたいな〜と思い続けていた。
2021年に『なめくじに聞いてみろ』が新装版で復刊していることに気づいた。買ってすぐに読んだ。おもしろくはなかった笑
次々に現れる殺し屋を殺すだけの作品という感想を持った。
僕の好きな007シリーズの原作小説を日本に初めて紹介したのは都筑道夫さんらしい。
さらに、007シリーズを日本を舞台にして都筑道夫が再現した作品が『なめくじに聞いてみろ』らしい。1962年出版の『飢えた遺産』文庫化した際に『なめくじに聞いてみろ』というタイトルに変更さしたそうだ。それを岡本喜八が1967年に映画化したものが『殺人狂時代』。
実は、2022年12月に『チャップリンの殺人狂時代』を観た時に、タイトルが共通しているという理由で岡本喜八『殺人狂時代』も観るつもりだった。その頃にはDVDを購入していたし。だけど『なめくじに聞いてみろ』がイマイチだった記憶が強くて後回しにしていた。DVDを買ったくせにね。
1967年の『カジノ・ロワイヤル』を観た時に岡本喜八『殺人狂時代』を思い出したのでやっと観ることにした。





○感想
つまらないだろうという思い込みからか、最初はイマイチだったのに、、、え、面白いんですけど!

仲代達矢って黒澤明監督の『椿三十郎』とかに出てたし凄腕のキャラクターだったから、最初に桔梗信治を観た時に仲代達矢だと思えんかった。
団令子も『椿三十郎』に出てるらしいんだけど、まだこの頃の役者さんの顔をなかなか覚えられない。。。

シーンが急に飛ぶ。それが良いみたい。


以下、ネタバレあり

















【原作『なめくじに聞いてみろ』との違い】
主人公の桔梗信治が殺し屋に狙われる理由。
『なめくじに聞いてみろ』は、ナチスで兵器研究者の息子が主人公桔梗信治であり、その父親が生み出した殺し屋たちを殺すという話。桔梗信治は殺し屋たちを雇い、自分をターゲットにさせ、返り討ちにしていく。
『殺人狂時代』は、ナチス残党が大日本人口調節審議会に対してその殺しの実力を見せてもらうために、テキトーに選んだ3人を始末してもらう話(ホントは違うけど)。たまたま選ばれた桔梗信治が生き残ってしまうが、狙われ続ける。桔梗信治が狙われる本当の理由は子どもの頃に肩に埋め込まれた「クレオパトラの涙」というダイヤ。桔梗信治はそれに気づいており、返り討ちにしようと計画していた。「クレオパトラの涙」は偽物で、ガラス玉だったらしいし、敵もた「クレオパトラの涙」なんかどうでも良くてエキセントリックな殺人がしたいだけらしい。


【どこが007?】
・オープニングテーマがアニメーション
・主人公の時計がROLEX。そんなに給料良いの!?!?!?
・アジトがドクター・ノオのアジトにちょっと似てる。
・主人公が車にこだわっているところ。
・殺人道具がQの開発に似ている。


【『チャップリンの殺人狂時代』と共通点はあるか?※ナンセンスに徹底した作品なんだからこんなこと考えてもナンセンス?ナンセンスな作品だからこそ細かいディテールがおもしろい?】
『チャップリンの殺人狂時代』には次のようなセリフがある。

記者「君は人を殺し、盗み続けた」
ヴェルドゥ(チャップリン演じる主人公)「ビジネスです」
記者「人はビジネスと言わない」
ヴェルドゥ「歴史的に殺しは一大ビジネス。戦争も紛争もすべてビジネスです。(起き上がる)1人を殺せば悪党。100万人を殺せば英雄。数が罪を正当化する。」
「あなたは有罪となった。刑の宣告の前に言うことは?」
ヴェルドゥ「はい、ございます。検察は私を責めたてましたが、知性は認めてくれた。お礼申し上げます。35年間頭を正直に使った。その後、誰にも必要とされず、自前のビジネスを始めた。世界は大量殺人を奨励しています。大量破壊兵器を作るのは大量殺人のためだ。そして罪のない女性や子どもを吹き飛ばす。科学的な方法を使って。大量殺人において私は素人です。しかし、じきに失う頭だ。いまさら湯気は立てません。この世から私の生命の火が消える前にひと言だけ。皆さんとは程なくお会いすることになる。すぐにね。」

数人殺せば大量殺人者として捕まる。だが、大量破壊兵器を作れば富を得られる。
対して、岡本喜八『殺人狂時代』において、大日本人口調節審議会は増えすぎた人口を日本のために減らすことが目的である。審議会の溝呂木という男は次のような考えを持っている。

人はみな、戦争のニュースに興味をもつ。面白いから。
人はみな、殺意を持っている。みんな殺意を隠しているが殺人狂は殺意を持っていることを露わにする。
英雄と呼ばれるヒトラーやナポレオンはみな殺人を繰り返した気違い。

兵器開発が儲かることをテーマにしている点や、大量殺人は英雄扱いという点が共通点してる。





○印象的なセリフ
溝呂木省吾「だいたいが私はゆっくりと楽しみながら殺す趣味でね。猫でさえ囚えた鼠はさんざんなぶってから殺す」





○登場人物(キャスト)キャラクター詳細
・桔梗信治(仲代達矢)
犯罪心理学の講師。
水虫。
瓶底めがね。ド近眼。
マザコン。胸像に向かって「ママ」と呼ぶ。ママの仏壇に備えていた造花(武器の一つ)を大切に持ち歩く。
愛車はシトロエン2CV。ボロボロで最高時速が20キロくらい。下駄がクルマ止めになる。
幼い頃、ドイツにいた。
肩の傷の中に「クレオパトラの涙」というヒトラーが所有していたダイヤモンドが埋め込まれていた。すでに取り除かれているし、ダイヤモンドではなくガラス玉だった。

・溝呂木省吾(天本英世)
戦時中、ドイツでヒトラーのスピーチを聞き心酔。
日本に帰国後、精神病院を経営。
大日本人口調節審議会(殺し屋たち)のボス。

・鶴巻啓子(団令子)
ヒロイン
オカルト雑誌の女性記者
溝呂木の娘

・大友ビル(砂塚秀夫)
小悪党
桔梗信治の車を盗もうとしたことをきっかけに仲間になる。
桔梗信治をアニキと慕う。

・ブルッケンマイヤー(ブルーノ・ルスケ)
ナチス結社の一人

・カードに刃物を挟んで投げる殺し屋
・義眼の女殺し屋
・老人傘使い殺し屋
・松葉杖の殺し屋
・霊媒師の殺し屋2人組
・自衛隊員のふりした奴ら
・ゴリラ(並みの怪力)男





○あらすじ
精神病院にて。ナチス残党のブルッケンマイヤーが精神病院の溝呂木省吾に会いに来る。牢屋に入れられているような患者たちが騒ぐ。ドイツ語で会話。何言ってんのかわからん。
ブルッケンマイヤーは「大日本人口調節審議会」のトップである溝呂木に仕事を依頼。そのまえに実力を見せてほしい。ブルッケンマイヤーはテキトーに選んだ3人を始末するよう言う。

アニメーションのオープニング。

電車で痴漢される着物で眼帯の女。降りたところで痴漢男に眼帯の下を見せ、殺す。
松葉杖の男に尾行される女。殺される。

ボサボサの髪に無精髭でボケ~っとした水虫男の桔梗が帰宅。下駄で車を停める。痒すぎて家の中に間淵という男がいることになかなか気づかない。
カップ麺を丼に入れてそこにお湯をかける。なぜ麺がしっかりと柔らかくなったのか理解できない作り方。
桔梗は間淵にロールシャッハテストをする。
間淵はカードを投げて仏壇の造花を切り落とす。ママの花を切り落とされてちょっと慌てる桔梗。
カードの間に刃を仕込んで、間淵は桔梗を殺そうとするが、驚いた桔梗は倒れ、糸に引っかかり、その糸に引っ張られて胸像が間淵の頭上に落下する。間淵死亡。

警察署では、週刊誌の記者の鶴巻啓子が取材している。そこに桔梗が自首しに来る。
警官たちとアパートに戻ると、間淵の死体は消えている。
レストランで桔梗は話を聞いてもらうために、啓子とパスタを食べる。
外に停めていた車が盗まれそうになる。桔梗は追いかける。大友ビルが車が遅すぎると逆ギレ。
啓子は警察に連絡しない代わりに、大友に協力させる。

大友は桔梗たちに「大日本人口調節審議会」について知ってそうな人間を2人紹介する。
知らない様子。桔梗は見当違いだと言う。
悪党2人は怒り、桔梗に殴りかかろうとする。桔梗はたまたま水虫を掻くことで避ける、ふっとばしてしまう。桔梗は大友にアニキと慕われるようになる。

殺し屋が来るかもしれないから、アパートに戻るわけにはいかない。大友は連れ込みホテルに桔梗を送る。
啓子は帰宅。大友は車で寝る。
連れ込みホテルで桔梗はメガネをかけたままシャワーを浴びる。物音がする。ベッドに啓子がいる。他の会社に取られたらもったいないと契約を申し出る。
万年筆はいらない。桔梗の肩に大きな傷がある。

精神病院では、溝呂木省吾がブルッケンマイヤーを拷問。ブルッケンマイヤーがなぜ桔梗にこだわるのか。自白剤を打って聞く。「クレオパトラの涙」というダイヤモンドの存在を知る。

洋服屋で、啓子とともに桔梗は背広を仕立てる。眼鏡を外す。髭を剃る。髪を短く整える。タートルネックのセーターにスーツ。ママのお守りの造花を胸ポケットに大事にしまう。
大友がくるも、桔梗になかなか気づくことができない。

大友によると、午後4時に地下鉄新宿駅で大日本人口調節審議会のメンバーと接触できるらしい。桔梗がふっとばした、大友の知り合いの悪党の一人が見つけてくれた。
地下鉄新宿駅で人身事故。死んだのは情報を持ってきてくれた大友の知り合いの悪党の一人。

殺し屋はまだここにいるはず。ベンチの爺さんが消えた。仕込み傘を使った爺さんが桔梗に近づく。桔梗は爺さんを線路に突き落とす。地下鉄に轢かれる。

3人で食事。そこに一人の男が話しかけてくる。桔梗に悪霊が取り付いているらしい。霊媒師を紹介してくれる。
桔梗は帰ったフリ。車のトランクに隠れる。
啓子と大友は霊媒師のもとへ行く。
啓子と大友は催眠術で操られる。啓子は催眠術をかけられながら、桔梗のことが好きだと言う。
霊媒師は大友から桔梗が車のトランクにいることを聞く。
霊媒師の部下がベルトを鞭にして桔梗のいるトランクを打つ。ボロボロになる車。桔梗は鞭男を轢き殺す。
桔梗は霊媒師のいる部屋に行く。
啓子はさらわれた。
大友は自分が鳥だと思い込むよう洗脳され、窓から飛び降りようとする。正気を取り戻し窓にしがみつく。
大友は霊媒師のスカートの中身を覗く。恥ずかしがった霊媒師がバランスを崩し、窓から転落。

どこかホテルの一室で桔梗はおもちゃのような秘密兵器を作る。
啓子は行方不明。大友は啓子を助けなきゃいけないのにおもちゃを作る桔梗に怒る。
桔梗はもちろん啓子を助けるつもり。

桔梗と大友は週間ミステリーの編集室に行く。啓子は休みらしい。
そこに溝呂木省吾がいる。啓子を知っているらしい。

バーに行く。溝呂木省吾が話をする。
溝呂木「人生の最大の快楽は殺人ですよ」
殺人や戦争の話。人間は戦争のニュースが好き。
英雄はみな殺人を繰り返したキチガイ。
溝呂木は桔梗に煙草を貸そうとする。桔梗はそれを断る。桔梗は女性店員から火を借りて自分の煙草で吸う。
溝呂木が桔梗に渡そうとした煙草には毒がある。桔梗はそれに気づいていた。
溝呂木が意図的に残したフィルムテープ。
桔梗と大友は映写機で見る。拷問を受ける啓子の映像。
着物を着た眼帯女にメモを拾ったところまで案内してもらう。
車で移動。
着物の女が眼帯を外す瞬間、桔梗は毒針を仕込んだクラッカーを放つ。女は、富士の麓に啓子がいることを話し、死ぬ。

桔梗と大友はヒッチハイクの若い女を2人乗せる。大友は二人の持っていた書類を盗み見る。「大日本人口調節審議会」の者らしい。

富士のホテルで女2人を降ろす。プールでは水着の女たちの撮影会。
ヒッチハイクの女二人が温めてほしいとやってくる。殺し屋とは別の人口調節審議会らしい。
そこに松葉杖をついた男がやってくる。
桔梗は松葉杖が武器だと見抜く。桔梗たちは松葉杖の殺し屋を追う。
松葉杖の男は車に乗り込もうとするが、桔梗と大友が待ち構えている。車の中で桔梗たちは啓子の居場所を聞き出す。
自衛隊の演習場のトーチカに啓子はいるらしい。自衛隊の演習でもうすぐトーチカが爆破されるらしい。

演習場に到着。自衛隊員2人が桔梗たちを止めに来る。自衛隊員二人に桔梗たちが襲いかかろうとしたとき、自衛隊員二人は上司に呼ばれ別の場所に行く。

桔梗と大友は爆破前にトーチカにたどり着く。そこに倒れていたのは啓子ではなくマネキン。
トーチカの中に置いてあった無線から溝呂木の声が聞こえる。

桔梗は、砲弾が着弾したとこをたどれば無事に脱出出来ると言う。(一度砲撃された地点に砲撃が落ちてくることはないと考えている。)
砲弾が大量に降ってくる。
目の前に落ちたのは不発弾。桔梗は不発弾を持って逃げる。
松葉杖の殺し屋は溝呂木省吾に殺される。
桔梗は偽自衛隊員を一人殺し、そいつの銃で他を射殺。
桔梗はジープに追われるが、不発弾でジープを片づける。

東京行きのバスに乗る。眠気で目を閉じる桔梗と大友。桔梗はバスに溝呂木省吾が乗り込んできたことに気づく。
桔梗と溝呂木はバスを降りる。大友はバスに寝たまま。桔梗は手帳を大友に預ける。

溝呂木の精神病院に向かう。
精神病院にはいろんな人がいる。檻の中に啓子もいる。

桔梗と溝呂木はテーブルを挟んで話をする。
ある博士がナチスから盗み出した「クレオパトラの涙」。
博士は捕まりそうになったとき、事故で運ばれた桔梗少年にダイヤモンドを埋め込んだ。
博士はナチスの拷問中に死に、回収できなかった。
ナチスの残党ブルッケンマイヤーは仲間を殺し、「クレオパトラのなみだ」の情報を独り占め。
桔梗は「クレオパトラの涙」のことを知っている。10年前に病院で手術したこと。偽物のガラス玉だったこと。
知らないフリをしたのは、命を狙われそうだったから
桔梗は、自分を狙おうとする組織をおびき出し、壊滅しようと準備していた。
溝呂木は、ダイヤには興味がないと言う。ヒトラーに心酔した溝呂木はエキセントリックな殺しを桔梗にしてやりたかったらしい。
溝呂木は隠し持っていた拳銃を桔梗に突きつける。桔梗は溝呂木の動きを封じ拳銃を奪い、溝呂木につきつける。

桔梗と溝呂木は廊下に出て歩く。溝呂木の助手でゴリラ並みの怪力男と戦う。倒す。
桔梗と溝呂木の決闘。溝呂木は普通には勝てないと謂、スペイン式の決闘を申し込む。お互いの左手をタオルで縛り、右手のナイフで戦う。
桔梗は溝呂木は追い詰める。
桔梗は殺人狂でも誰でもみんな死ぬのは怖いと言う。
溝呂木の左手は義手だった。義手を取り外し、隠されていたマシンガンを桔梗に向ける。
溝呂木は背後の檻に捕らわれた狂人に首を絞められ、死ぬ。

桔梗は啓子を連れて車で脱出する。
啓子は桔梗を抱きしめる。
啓子は指輪に毒針を仕込んでいて、桔梗を殺そうとする。桔梗は造花から催眠ガスを噴出する。

桔梗な啓子を疑った理由。
①地下鉄の駅で桔梗は姿を変えていたのに殺し屋にバレた。それは目印として啓子がいたから。
②ゴリラ男が襲いかかったとき、啓子は位置的に見えていたはずなのに何も言わなかった。

啓子は自ら毒薬を飲む。桔梗に殺されるのではなく自分で死を選ぶ。桔梗にかけられたのが催涙ガスではなく毒ガスだと思い込んだため。

啓子は溝呂木の娘。
啓子はバッグに仕掛けた爆弾を起動させる。桔梗はそのバッグを外に放り投げる。桔梗によって花火とに変わっていた。
桔梗は車を降り、去る。

大友の行きつけの店に桔梗がやって来る。ボサボサ頭の無精髭姿で水虫が再発した桔梗。桔梗は双子だと言う。双子の弟が迷惑をかけました、と。

桔梗は大友からこの事件のことが記された手帳を受けとる。

桔梗は車に乗って去っていく。