キネマクロラ

千年女優のキネマクロラのレビュー・感想・評価

千年女優(2001年製作の映画)
4.5
1998年頃のインターネット黎明期。
まだブログサービスなんてものはなく、個人でホームページを作成していた時代の話。知人から面白いサイトがある、とリンクが送られてきた。リンクをクリックするとPCの画面に簡素なメッセージが表示された。

「TMJのホームページはこちらに移転しました」

当時はインターネットプロバイダーの乱立期で、プロバイダーを乗り換えることも多く、そういったメッセージはありふれたものだった。またサイトをリダイレクトする技術も拙く、移転先のリンクを自分でクリックする必要もあった。
移転先に飛ぶと、またもや「TMJのサイトの移転先はこちら」と同様のメッセージが。
軽く舌打ちしながらリンクをクリックするとまた別の移転のお知らせが表示される。そんなことを何度か繰り返しているうちに、何かの悪戯かと疑い、URLのドメイン名を確認するも、きちんと毎回、別のドメインに切り替わっている。どうやら同じサイト内をぐるぐるさせられているわけでは無さそうだ。だけどこんなに何度もプロバイダーを乗り換える人なんて果たしているのだろうか。リンク先を踏めども、繰り返される移転のお知らせ。うすうす気づきながらも、こうなるとこちらも意地でその先に何があるのか絶対に見てやる、とクリックする手を止められなくなる。最初は素気なかった移転先のお知らせのデザインも徐々に凝ったものに変わり、中には移転先のリンクを探し出すのに苦労するものも。
おそらく100回以上はクリックしただろうか。ついに最終ページにたどり着く。

「TMJ=たらい回しジャパン、のホームページへようこそ!」

そこで明かされる企画の趣旨と賛同者(協力者)たちのクレジット。つまり個人のホームページを持つ人たちが、その一部にTMJ移転のお知らせページを作り、それをリンクでつなげてバトンのように受け渡すことで成立しているコンテンツだったのだ。最終ページには掲示版も用意されており、ここへ誘導された人たちの感想が書き込まれている。
「たちの悪い嫌がらせは止めて下さい!」と怒る人はむしろ少数派で、ほとんどの人は「なるほど~、そういうことか~」とか「すっかり、騙されました(笑)」と楽しんでいる様子。中には気に入って「もう一周してきます!」なんて人も。
「過程」だと思っていたものが実は「メインコンテンツ」だったという話。

さて、話を千年女優に戻す。
僕の中で初めてこの映画を見た時の感覚はTMJのそれに近かった。
人生にとって大切なのは「結末」か、それとも「過程」か?
夢は追っている時が一番楽しい。叶えた夢は無くなってしまう。
充実した人生を送る上で夢を追うことは「目的」ではなく「手段」となる。
満たされないことは幸せなのかもしれない。

「満月は次の日から欠けてしまうけれど、
 14日目の月にはまだ明日がある。
 明日という希望がね。」