カタパルトスープレックス

ラスト・デイズ・オブ・ディスコのカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

4.6
1980年代のニューヨークを描くホィット・スティルマン監督の三部作の第三作目。前作『バルセロナ』と同様に今作『ラスト・デイズ・オブ・ディスコ』で描くのも「ヤッピー」です。

ヤッピー(Yuppie)は"Young, Upwardly-mobile Professional"の略で、若くて上昇志向の高いビジネスパーソンです。一昔前の日本では「ヤンエグ」って言われてましたね。

舞台は1980年代初頭のニューヨーク。1970年代から続くディスコブームがそろそろ下火になってくる頃です。この映画は女性たちのメインプロット(恋愛感のすれ違い)と男性たちのサブプロット(脱税捜査)で構成されています。

メインプロットの主人公は大人しい性格のアリス(クロエ・セヴィニー)とセックス革命に感化されているイケイケのシャーロット(ケイト・ベッキンセイル)です。二人は同じ出版社に勤めてメディアで成功することを望んでいます。同時にイケてるヤッピーにもなりたい。シャーロットはヤッピーらしく「イケてる女性」になるためにアリスに色々とアドバイスをします。しかし、そのアドバイスのせいで二番目に好きだった男性のトム(ロバート・ショーン・レナード)に遊び人だと思われてしまいます。トムに処女を捧げたのに淋病とヘルペスをうつされてしまう(セックス革命バンザイ!)。そして、尻軽女として捨てられてしまいます。

サブプロットの主人公はクラブのマネージャーのデズ(クリス・アイグマン)、広告会社に勤めるジミー(マッケンジー・アスティン)と地方検事補のジョシュ(マット・キースラー)です。このサブプロットはサスペンスなのであまりネタバレになるのは避けます。この三人とメインプロットの二人はグループで行動するのですが、そこでの会話がスノッブなのですが洒落ています。

特にボクが好きなのがディズニーの『わんわん物語』についての会話。血統書つきコッカー・スパニエルのレディと野良犬トランプの恋愛映画です。真面目なアリスと地方検事補のジョシュは「気が滅入る映画」と評します。トランプはごろつきで浮気者なのにレディは許して結婚してしまう。「女性は悪い男に惹かれるイメージ」を視聴者に刷り込んでいる。一方でイケイケのシャーロットとクラブのマネージャーのデズは野良犬トランプの成長の物語だと捉えます。正解なんてないですが、違う意見を知性的に語れる仲間ってすごくいいと思うんですよね。ホィット・スティルマン監督作品はそういう会話がたくさんあります。

この映画は1980年初頭のクラブシーンも描いています。登場するクラブのモデルになったのは"Studio 54"です。この他にもガラージを生み出した"Paradise Garage"や多くのクラブに影響を与えた"The Loft"などがニューヨークにありました。このようなクラブはあまりにも人気のため、入場制限がありました。入れる人たちはある種の特権階級でした。そういうスノッビーな姿勢が嫌われたりもしました。1970年代中頃から始まる音楽としてのディスコシーンですが、1980年代中頃にはすっかりと寂れてしまいます(クラブはユーロビートやニュージャックスウィングなど常に新しい音楽を取り入れて生き残りますが)。

この映画でディスコは「若い日々」の隠喩です。常に新しい音楽が生まれるように、常に新しい世代が生まれる。若い日々は続かない。でも、世の中には常に「若い日々」が溢れている。クラブには常に新しい音楽が溢れているように。最後のシーンがそれを表しています。あのラストは本当に大好きです。