幽斎

コリンヌ・クレリー/濡れたダイヤの幽斎のレビュー・感想・評価

3.6
本作には原盤が2種類有り、イタリア盤はマスターが古くレターボックス収録。アメリカ盤はHDリマスターをスクイーズしたノーカット版。本編はアメリカ版で国内初ディスク化。Clery作品が最近円盤化が盛んな理由は謎(笑)。

Corinne Clery、1950年3月23日フランスのバリ生まれ御年70歳。。私から見ればお祖母さん世代(笑)。Dominique Aury原作のサドマゾ小説の傑作「O嬢の物語」を「エマニエル夫人」Just Jaeckin監督が映画化。マイナーなモデルとして活動したが、再婚相手の兄弟が強く推薦して抜擢され世界的な大ヒット、一躍ハリウッドで注目される。「O嬢の物語」の特徴はCMNF「Clothed Male and Naked Female」つまり女性は全裸だが、男性は着衣のままセックス。Édouard Manetの裸婦像など古くから有る手法で、そのアンバランスが主従関係を連想させ、性的興奮を覚えるファクターとして認知された。AVは女性が着衣のままで、男性が全裸でセックスするパターンが多い。

私が初めてCleryを観たのは「007ムーンレイカー」のレンタル。生まれる前の作品ですが、メインのLois Chilesよりも際立つ存在感。その後ハリウッドで活躍するかと思われたが、彼女は3度目の再婚相手と共にイタリアに移り住み、TV番組を中心に活躍。モデル出身は冷遇されるハリウッドなので、地元に根付いた賢明な生き方と思う。

カテゴリー的にはイタリアン・スリラー「Giallo」ジャッロ。ジャンルの祖であるDario ArgentoやMario Bavaの作品を指し、英米のミステリーの定石通りのフーダニットは有るが、其処にスタイリッシュな映像美と多くの流血、そしてセックス描写が織り成す独自なジャンルを確立。代表作「シャドー」を始め「オペラ座・血の喝采」「トラウマ/鮮血の叫び」「姿なき殺人」「狂気のいけにえ」など、ミュージシャンGoblinの音楽も印象的。

モンド映画の元祖「世界残酷物語」Gualtiero Jacopettiの実質的な監督Paolo Cavaraの代表作、と言っても後は「タランチュラ」だが(笑)。この作品もジャッロでは有るが、作られた年数から考えると過渡期と言え、ハリウッドのクライム系の影響を受けており、逆にイタリアの良さが消えつつ有る。物語の前半こそジャッロらしい、血糊たっぷりの連続殺人の謎を解くが、後半に為ると現代社会のモラルを問う展開に為り、警察への風刺にプロットが擦り替わってしまう。

お目当てのCleryの裸体は確かに登場するが「007ムーンレイカー」以降の彼女は脱ぎの仕事に興味が無く、騎乗位が2分弱拝めるだけで、これがおカズに成るかは微妙。円盤を購入予定の方は、レンタルしてから買う事をお薦め。後に監督として活躍するMichele Placidoの他に、ハリウッドからEli Wallachが参加して存在感を発揮するが、もう1人の部長刑事役Tom Skerrittは、完全に添え物状態で、別の作品でイタリアに来たので、序に小遣い稼ぎに出演、としか思えない。全編イタリア語で彼らも吹き替えなので、ご注意を。

ジャッロとして観ると、複雑に入り組んだ脚本の交通整理が不十分で、理論整然としたシノブスに為れたミステリー派には正直お薦めし難い。最後まで興味を繋ぐ展開は悪くないが、日本語字幕だと落としてる推論も有るようで、ジャッロらしいサプライズにも欠ける。特に後半はハリウッドを意識したアクションが中途半端、何となく古き良きイタリア映画の終焉を見る思い、と言うのは言い過ぎか。

目的がClery、或いはジャッロ、誰に薦めて良いか難しい作品。お暇でしたら、どうぞ。
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