櫻イミト

催淫吸血鬼の櫻イミトのレビュー・感想・評価

催淫吸血鬼(1970年製作の映画)
3.8
フランス吸血鬼映画のカルト監督ジャン・ローランの3作目。サンドラ・ジュリアン(当時20歳)の初主演作で代表作。原題「Le frisson des vampires:英The Shiver of the Vampires(吸血団の狂騒)」。旧VHS題「地獄の儀式~吸血魔団~」。日本劇場未公開。

【物語】
結婚式を終えた新婦イーズ(サンドラ・ジュリアン)は新郎アントワーヌと共に、疎遠になっていた従兄弟に会おうと彼らの住む古城に向かう。その兄弟は有名な吸血鬼ハンターだった。しかし到着すると「兄弟は亡くなった」と告げられ二人の娘(マリー=ピエール・カステル&クエラン・ハース)から城を案内される。悲しみのうちに古城に宿泊する新婚夫婦。実はこの城と兄弟の魂は吸血鬼の女王イゾルドに乗っ取られていた。。。

サンドラ・ジュリアンは「現代ポルノ伝 先天性淫婦」(1971)「徳川セックス禁止令 色情大名」(1972)を観た際に、鈴木則文監督との心温まるエピソードを知り好感を持っていた。本国フランスでの出演映画は初めて観たが東映の2本よりもずっと魅力的に見えた。日本での撮影はカチカチに緊張していたのだと本作を観て痛感した。ローラン監督とのタッグが本作だけなのは、以降ギャラが上がって使えなくなったのだと推察する。

肝心の本編は、古城、墓、二人組女子、ローラン・ビーチと、監督の定番である耽美要素を押さえつつ、新機軸の“赤い照明”を導入し、これまで通りのアート志向にエンタメ色を加えた作りになっていた。

言い方を変えると俗っぽさを打ち出していて、笑いの役回りを果たしたのが吸血ハンター兄弟と吸血鬼女王。兄弟は今風に言えば“悪魔おたく”キャラで描かれ、「エジプトのイシス紙が~」とか「アヌビスが~」とか、ペラペラと悪魔知識をひけらかしドヤ顔を決める。一方の吸血鬼女王は、予期せぬところからの登場でヒロインのサンドラを驚かせる一発芸を3パターン繰り返す。最初の時計からの登場は単におかしな演出だと思って観ていたが、3回重ねることでギャグとして成立し、3度目は思わず笑ってしまった。

古城ロケーションの活かし方はレベルアップし、カメラワークにも工夫が見られた。吸血鬼たちの衣装は当時のヒッピー・カルチャーを反映したもので、劇伴はヴェルヴェット・アンダーグラウンドのようなアヴァンギャルド・ロックだった。

総じて、盛り沢山な要素が詰め込まれて楽しんで観ることができた。反面、自分のような好事家にとっては俗っぽさが少々ノイズに感じられた。

ローラン監督はデビュー3本目となる本作で、メジャーになるべく勝負をかけていたのではないか。4本目となる次作「レクイエム吸血鬼への鎮魂歌」(1971)でのインタビューで「私の作風は拒否されることが解ったので、好きな趣味を追求した」と語っている。つまり本作は大衆相手の勝負に敗北し、大きな転機になったのだと思われる。裏を返せば、ローラン監督の最も大衆エンタメ的な作品が本作なのだと言える。

※ローラン監督は女子二人組のキャスティングを、前作に引き続きカステル双子姉妹で考えていたが、妹カトリーヌが妊娠したため、姉マリーだけが出演することになった。観客としては、ただでさえ目立つ双子姉妹が連続出演するとマンネリぽくなるので、結果的には本作の白人&東洋系の組み合わせはベターだったと思う。

※本作の古城はフランスのセプトモンツ(Septmonts)城
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