イチロヲ

マーティン/呪われた吸血少年のイチロヲのレビュー・感想・評価

4.5
吸血欲求に苛まれている内向的な少年が、敬虔なキリスト教徒の親戚宅に軟禁されてしまう。人間に帰化することができない吸血鬼の悲壮と、現代社会に生きている人間の孤独を重ね合わせている、サスペンス・ホラー。

冒頭部の犯行シーンにて、主人公少年の嗜好が克明に描写される。標的の人間に睡眠薬を投じ、カミソリで皮膚を切り刻み、滴る生き血をゴクゴクと飲み干す。吸血行為をしなければならない性癖をもっているが、基本的には一般庶民の少年と大同小異。

少年を軟禁する親戚は、昔ながらの宗教観を大事にしている男性年配者。宗教家によって都合よく作られたサタニズムとエクソシズムの概念が、少年にはまったく通用しない喜劇性。「ここがヘンだよ、キリスト教」が全編に渡りドライブしている。

主人公の自己実現のドラマパートでは、夫の留守が多い有閑夫人との交流劇が展開。吸血を嗜んでいるため、普通の性行動を起こすことができない少年が、孤独を抱える夫人と心の慰め合いを続けていく。まさに「孤独を拗らせる系」の王道とも言うべき逸品。
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