のんchan

エメランスの扉/家政婦の秘密ののんchanのレビュー・感想・評価

3.9
圧倒されるヘレン・ミレンの演技からつくづく学べる作品。

邦題「家政婦の秘密」が付いていることでマイナスになっていると思う。原題のままでよいし「エメランスの扉」が正解。


舞台は1960年、ブダペスト。
元教師で小説を書いているマグダは優しい夫と2人暮らし。家事は苦手。その為、向かいに暮らす働き者の老婦人エメランスに声を掛け家政婦として雇う。
ところがエメランス、有能な仕事ぶりだが、気難しい性格でマイルールが細かく、使用人なのに容赦しない発言を投げ仏頂面。
夫婦が恐縮するような立場逆転の行動をして、観ている方が驚くが、食事は美味しく気配りが行き届く。無愛想ながらも窮地の時には力を貸してくれる頼れる存在。

マグダが日曜にお洒落して教会へ行く時、後ろ姿に向かって
「人に家事をさせて立派な信仰だこと」なんて皮肉を吐く。
もし私がマグダなら即刻クビにするかも知れない。感じ悪いったらない。
しかし2人は故郷が一緒というところで繋がりを感じていた。

エメランスはなんと20年以上もの間、自宅のドアから誰一人も迎え入れたことがなく、猫の鳴き声だけが聞こえるという。かなり秘密めいているが、近所の人たちは慣れていて、春夏秋冬どんなに天気が荒れていようが門前の道を掃き清める。そんな仕事ぶりに感心しつつも、言っても聞かないと呆れモード。
寒空の下で働き、とうとう身体を壊すエメランス。
同時にマグダは名誉ある文学賞を受賞して国の式典へ。戻るとエメランスは入院してしまう...


2人の交流を描くヒューマンドラマだが、エメランスは辛い過去を生き抜いて来てブレない死生感を持っている。昔、祖父から「愛するものを失わないように、二度と愛するな」と言われて育ったのだった。
自分なりの信仰と深い愛情を持っている人だというのが伝わってくる。


ジャケ写も暗いし、派手さはないものの、そして風変わりで時たま唖然とするシーンも出てくるけど、ある程度の年齢の方なら理解出来るはず。
当時ヘレン・ミレンは66歳かな?唸るほどの名演技なので、サクッといかがですか?
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