RandB

3.11 A Sense of Home FilmsのRandBのレビュー・感想・評価

3.11 A Sense of Home Films(2011年製作の映画)
2.5
なら国際映画祭の公式サイトがしれっと本編を公開していることを知り、気になったため、鑑賞。(中盤にリンクあり。)

[概要]

2011年、東日本大震災から半年が経った9月11日に、イベント上映された3分11秒×21人のオムニバス映画。
河瀬 直美監督が"A Sence of Home"(家という感覚)というテーマを定め、なら国際映画祭が各国の映画監督に呼びかけて作られた作品であり、ジャ・ジャンクー、ポン・ジュノ、想田 和弘、ビクトル・エリセといった名だたる監督が集結した。

[感想]

発想はいいものの、結局、企画倒れと言わざるを得ない作品。
3分11秒という尺は映画監督にとっては、あまりにも短く、「311」ではなく、「家」という的外れなテーマ選定も、かなり、作品の軸をブレさせてしまった印象。名作や貴重な映像作品になりえただけに、かなり、ガッカリ感が大きいオムニバス映画だった。

以下、著名監督による作品のタイムコード
ジャ・ジャンクー(10:40~)
桃井かおり (17:20~)
ジョナス・メカス (24:00~)
想田 和弘 (27:20~)
ポン・ジュノ(44:00~)
ビクトル・エリセ(01:04:05~)
河瀬 直美(01:07:25~)

参考

3.11 A Sense of Home Films を改めて公開 | なら国際映画祭 Nara International Film Festival
https://nara-iff.jp/news/315/
(本編へのリンクはコチラから。)

フォーカス・オン・アジア & ワークショップ
https://www.shortshorts.org/focus_on_asia_2011/ja/program_sp.html
(それぞれの作品の大まかなあらすじは以下から。)


[各作品感想]
※以下、あらすじ・タイトルなどは参考に挙げたサイトや本編のクレジットを確認し、掲載。順番は本編での上映順。
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『未来の家(FUTURE HOUSE)』
監督:アリエル・ロッター(『Sólo por hoy』)
概要:
ブエノスアイレスの郊外に住む6人の子供達の週末を切り取ったドキュメンタリー短編。
感想:
「El otro(英題:The Other)」で第57回ベルリン国際映画祭(2007年)の審査員特別賞を獲得した監督の作品とのこと。だいたい、こういう類の超短編作品は、監督の過去作を見ていれば、話が繋がっているので、言いたいことが分かるんですが、本作は見てないので、余裕で分かりませんでしたね……。汗
登場人物が語るに、全員が義理の兄弟?姉妹?とのことで、タイトルから察するに、「地球に生きる人々は全員家族」的なメッセージですかね??

『記憶の伝承』
監督:イサキ・ラクエスタ(『Entre dos aguas』『La propera pell』)
概要:
死の間際、故郷を思い出したという祖父の最後の言葉。そんなエピソードを全裸の家族が横切る映像と共に語る。
感想:
「home」というテーマを故郷に重ね合わせたと思われる短編。
幼少期を反芻する祖父の言葉を年齢の異なる家族三世代を被写体に表現している。人生の最期、人は幼少期の記憶へと回帰していく。分からないこともないが、面白くはない。

『MONSOON』
監督:アピチャットポン・ウィーラセータクン(『ブンミおじさんの森』)
概要:
ギターを演奏する男と横向けでスカイプをする男。彼がこちらに指にとまったホタルを見せつける。
感想:
スカイプ映像ゆえの画質の悪さ、アコースティックギターの音色、暗闇に輝く蛍の光。突然の顔アップが心臓に悪いし、ホタルの動きが気持ち悪い、シンプルに不快感を抱いてしまった……。

『家 alone together』
監督:ジャ・ジャンク-(『罪の手ざわり』『山河ノスタルジア』『帰れない二人』)
概要:
橋、湖、男、女、子供。3人の家族の記録。
感想:
ここにきて、やっと映画らしい映像。説明文でやっと家族と分かったけれど、そもそも3分という時間制限が難しすぎるのでは……?
「家」に一緒に住んでいても、心が一つとは限らない的なメッセージ??

『LA DUNETTE』
監督:カトリーヌ・カドウ(『黒澤 その道』)
概要:
家から見える街の景色、そして、自分の住む家の様子をありのまま映し出す。
感想:
街頭で『ゴッドファーザー』のテーマソングを演奏しようと必死なトランぺッターの音楽しか印象に残らん。笑
もはや、ただの自宅紹介なので、突き詰めれば、『ダウンタウンDX』

『余心』
監督:桃井かおり(女優/監督『火 Hee』『ヘルタースケルター』)
概要:
ビデオメッセージ撮影中、地震に見舞われた女性。ニュースを確認し、大切な人の安否を確認する彼女。
感想:
ここにきて、初めて3.11テーマの作品。一人芝居はさすがだけれど、わざとらしい演技、雑に揺れを表現するあたりに、若干の興ざめ感。しかし、撮影期間や制作費問題を考えれば、仕方はないか……。やりたいことは分かる。

『ひげ』
監督:百々 俊二(写真家:写真集「千年楽土」「大阪」)
概要:
家族写真、過去のホームビデオ、結婚式の挨拶。振り返る監督自身の家族の記録。
感想:
写真家の作品ゆえに、意外と3分という尺を上手く使いこなしていた印象。記憶の断片や蓄積をまとめたホームビデオではあるけれど、実は、この超短編に一番適した形式だったのかも。

『モン・ヴァントゥ』
監督:ジョナス・メカス(『ウォールデン』)
概要:
聖アウグスティヌスの書いた"告白"を持ってモン・ヴァントゥを歩いた詩人・ペトラルカ。
彼の原風景の再現。
感想:
詩と映像の連なり。形式としては大正解な気も。映像が美しければ、最高だったのだが……。

『HOME』
監督:想田 和弘(『精神 0』『選挙』『選挙2」)
概要:
監督の故郷・栃木県足利市で撮影した映像詩。
感想:
もう、ここまできても、このクオリティならば、完全に企画倒れとしか言いようがない。家の近所を撮影しているだけの本作が一番マシに見えるのだから……。

監督:チャオ・イエ(監督:『ジャライノール』)
概要:
車窓から見える街の風景、寝転ぶ犬、洗濯機を回す母、ありふれた日常の記録。
感想:
はいはい、また、ホームビデオですね……。監督のコメントいわく、ありふれた日常に心の底から暖かみを感じるとのことだけれど、それを3分の中では伝えきれてないっすよ……。

『Yayoi-March』
監督:西中 拓史(『APE』)
概要:
ニュースで震災を知った女性。早速、宮城の家族を心配する彼女だったが……。
感想:
とにかく、監督がえらい!震災発生後2時間の女性のパニックを無駄なく描いていた。
ほぼ無名の日本人監督の作品が一番上手くまとまってるってどうゆうこと??
芸大出身というだけあって、短編を撮るのが上手いのか、しっかりと起承転結が描かれてて一番良かった。

『水をやる』
監督:ウィスット・ポンニミット(漫画家:「ヒーシーイット」)
概要:
家の庭に水をやる青年。家を離れることになった彼は……。
スライド方式のアニメーション。
感想:
心が温まる系の物語。
実写ではなく、絵というのが、今回の企画にあってたような気も……。

『希望の灯り』
監督:レスリー・キー(写真家:写真集「COLORS OF HOPE」)
概要:
白黒で映し出される被災地の記録。
彩られる大切な記憶。
感想:
アイデアがシンプルかつ映像がキレイっていうのが良いよね。

『Iki』
監督:ポン・ジュノ(監督:『パラサイト 半地下の家族』『母なる証明』)
概要:
浜辺をさまよい、何かを探している女性。そこには、仰向けに横たわる少女がいて……。
感想:
大した内容ではないけれど、しっかりと「311」を踏まえた作品に仕上げているところはさすが。説明文を読む限り、タイトルは「息」からとっているようだが、同時に「生き」を意味しているような気も……。ブラックユーモアな監督の作風も、若干、感じつつ、監督作にしては珍しく、希望のある終わり方なのは、「日本の人々」を思いやった監督の優しさのようにも……。

『A piece by So Yong Kim』
監督:ソー・ヨン・キム(『ラブソングに乾杯』)
概要:
新たな家族を授かった監督の家族を切り取った日常の断片。
感想:
まぁ、安定のホームビデオですわな……。笑
とはいえ、画作りのこだわりは感じる。

『むすび』
監督:山崎 都世子(『桃まつり presents kiss! 壱の kiss!「たまゆら」』)
概要:
大阪・西成の高齢者グループ『紙芝居劇むすび』。彼らのドキュメンタリー。
感想:
撮りたい内容だったことは、すごくよく分かる。しかし、企画意図との大幅な距離感と、3分で語るには限界が多すぎるテーマが痛恨のミス。

『ひいばあちゃん家につつまれて』
監督:ナジブ・ラザク(『Glass Enclosure: Tokyo Invisible』)
概要:
監督の実家での様子を切り取ったホームビデオ。
感想:
映像はきれいなんだけどなぁ~。何かを考える前に終わってしまう惜しさ。

『A Moment on Earth』
監督:ペドロ・ゴンザレス・ルビオ(『祈-inori』)
概要:
女性の姿を映し出す男性。彼の感覚で語られる言葉。
感想:
ナレーションで語っていくのは、正解だけれど、いかんせん、何を言いたいかが分からない。アート系でごまかされそうな映画。そして、やっぱり、映像はもっと、こだわってほしいところ。(低予算なのは分かるけど。)

『People Have The Power』 
監督:パティ・スミス(ミュージシャン:アルバム「ホーセス」「ドリーム・オブ・ライフ」)、スティーブン・セブリング
概要:
3.11に対するある女性のメッセージ。
感想:
イスに座っている女性とリズミカルな詩。ミュージックビデオ的な映像のこだわりは良い。しかし、映像作品としては、ほとんど動きのない映像が辛い。

『アナ、3分』
監督:ビクトル・エリセ(『ミツバチのささやき』『エル・スール』『マルメロの陽光』)
概要:
本番の3分前、パソコンのビデオチャットに話しかける舞台女優。彼女が語る3.11への想い。
感想:
最後に2人の巨匠を残しているからには、他を上回るクオリティなのだろうなぁと思ったら、しっかり、そんな印象を受ける作品だった。
女優がビデオチャットに話しかけるという体裁はとりながらも語られるのは、あくまで、監督の言葉。それゆえ、監督の私感や伝えたいことが凝縮されていて、良かった。もはや、映画と言うよりはCMなのだけれど……。汗

『HOME』
監督:
河瀬 直美(『萌の朱雀」『殯の森」『あん」)
概要:
家という場所に生きる少女、老いていく母。
フィルムを思わせる映像で映し出される少女の記録。
感想:
本作の企画発案者ゆえに、映像におけるこだわりや、幼少期の自分に投げかけるような内容は見事。しかし、だからと言って、完成度が高いかと問われると疑問。そもそもの企画の時点で、イマイチだったのかも……。もう少し、尺を伸ばした上で、明確なテーマが必要だったのだろうなぁというのが率直な意見。
RandB

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