華麗なる加齢臭

太秦ライムライトの華麗なる加齢臭のレビュー・感想・評価

太秦ライムライト(2013年製作の映画)
5.0
【R.I.P.福本清三】
映画ファンであれば「大部屋(俳優)」の説明は不要だろう。
この大部屋俳優にスポットライトが当たったのは、何といっても「蒲田行進曲」(1982年)だ。つかこうへいの芝居を深作欣二が見事にスクリーンで昇華させ名作と呼ばれる作品にした。なにより「映画愛」が感じられる作品だった。

そして、この「太秦ライムライト」も、蒲田行進曲同様に出演者、スタッフから、とてつもない映画愛が伝わる作品である。

邦画が面白かった時代、紛れもなく作品から熱量を感じ取れた。たとえ予算の関係で美術がチープであっても、熱量がそれをカバーしていた。

その熱量は様々なものから発せられるが、「大部屋」達からの熱量も、スクリーンを通して痛いほど伝わってきた。熱量による存在感から、この作品にも出演している小林稔侍、そして川谷拓三、石倉三郎、志賀勝の様に大部屋から「俳優」になった者もいる。しかし、大方は本作品の主人公を演じた福本 清三の様に、ベテランになるまで大部屋で終えるか、諦め他の生業に転じるのだ。

その意味では、福本 清三の熱量は直接的ではなくクールで寡黙、あたかも職人が有する様な熱量だ。現場にいる松方弘樹の様なスターの業界人には、痛いほど伝わるだろうが、スクリーンを観る観客には、マニアでない限りは伝わらないだろう。しかし、その「切られ役」としての生きざまを知れば日本映画における至宝であったことがわかるはずだ。

お正月映画の目玉がアニメーションとなっていた2021年1月1日に福本は息を引き取った。
大部屋なんて今の感覚からすれば、その労働環境はブラックであり人生をそれにかけようとする若者はいないだろう。だが東映の熱量の一人であった脚本家、笠原 和夫は言った。「映画はやくざなり」と。

やくざではないが、決して真っ当な社会じゃない。そこでうごめく者たちの熱量で作られるのが「映画」だ。そしてまた一人その熱量がある映画人がいなくなったのである。大部屋がなくなり、斬られ役がいなくなった。環境は良くなったが、つまらない薄っぺらな作品が多くなった邦画。実に皮肉である。