blacknessfall

お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいましたのblacknessfallのレビュー・感想・評価

4.2
ニンジンみたいなプロパガンダ
ぶらさげられてりゃ 安心か
上昇志向だ おまえはきっと 教則本とやりくるえ
MONEY/THE STALIN

そうそうこれだよ!やっと海外のパンクみたいなこと歌ってるバンドに出会えたよーー!、とSTALINを初めて聴いた時の衝撃は自分の音楽体験の中でもベスト5には入る、確実に。

パンクに興味を持って、じゃあ日本のもとなった時に、スタークラブやラフィンノーズはそのあまりに日本のヤンキーを色濃く残したノリがまったく合わなかったし、COBRAは「日本人がoi! punkやるとこんなにダサ恥ずかしくなるか!?」って失望しかなかった。
ブルーハーツはいいと思ったけど、容易に体制の強化・補完に転用されかねない良くも悪くも実直で健全なメッセージ性に物足りなさを感じた。
そんな感じで日本のパンクはスルーでいいかな?と思ってたとこにTHE STALINと出会い、それを機にアンダーグラウンドに根差した強いパンクスピリッツを激しい音で叩きつける日本のパンク/ハードコアに触れることになるので、本当にTHE STALINは特別なんだよ笑

THE STALINと言えば遠藤ミチロウさん。これだけ思いの丈を語っておきながらよーやくこれを観た😂
そんだけ好きならもっと早く観とけって話なんだけど、好きすぎて迂闊なタイミングで観るなんてできないから、余裕がある時にと思ったらこんなに遅くなってしまって、、

思ったのは1人の男として見ると実はパンクっていうのはミチロウさんにとっての1つの側面でしかなくて、それもジャンルや思想として拘りがあるわけではなく、その時の自分の表現したいものとマッチしていたからパンクになっていたんだなってこと。
これはけっこう珍しいことだと思った。有名無名、バンドをやってたか?否か?に関係なくパンクスの人って「もう、自分の主成分はパンクです!」みたいな人が多いから(おれもそうだしw)

ミチロウさんがそうじゃないのは年代的なことが大きいと思った。ミチロウさんが音楽聴き始めた頃はパンクはなかったし、ハマった音楽はプロテスト系のフォークで、もともとアコースティックで1人でやっていたから。
大学の頃にギター抱えて一人旅したり、パンクってよりヒッピーやビートニクなんだよな、根本が。

だからキャリアの殆どが実はソロのアコースティックライヴなのも納得した。

このドキュメンタリーは本人が監督してるんだけど、"=パンク"という切り口だけで語られがちなことへの違和感から実像を伝えたいって思いで撮った気がした。

実際、みんな観たがるであろう過去の過激なライヴパフォーマンスなんかはあまりなく、STALINを始める前の自分の生活、子供時代のこと、好きな作家、そして現在の活動、パンク以外のミュージシャン達の交流なんかを静かな口調で語るシーンが半分以上を占める。
印象的だったのは、自分はごく普通の家庭に生まれ育ったことに違和感があり、その普通さの象徴である母の存在が息苦しいかったと言ってたこと。
あれほど世間一般から逸脱した(させられた)者の視線から世界の欺瞞に呪詛と毒を撒き散らすような曲を書いてたから、その表現の源泉の意外さにびっくりした。

最後までこんな感じで語り続けて行くのかと思ったら、制作中に2011年311になる。
福島出身のミチロウさんは以降、反原発活動を開始する。
ここからドキュメンタリーのトーンががらりと変わる。テーマもミチロウさん個人を離れて原発と日本社会、経済ばかり優先した社会の欠陥。そしてそんな社会の一員である自分も含め"我々は"どこで道を誤ったのか?そして誤りを正すために何ができるのか?

原発政策に怒りを表明するためアクティブに活動し現状の深刻さに苦悩するミチロウさんには共感しかないけど、人間ミチロウの掘り下げが中断してしまったのはちと残念に思った。

まあ、でも、これがドキュメンタリーの醍醐味だとも思ったよ、作り手の意図を越えたすごい展開が起るって意味で!

311の記録映像としての価値も高いと思う。
過ぎ去ると忘れてしまう心情や動きが克明に記録されてる。
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