マテ

D坂の殺人事件のマテのレビュー・感想・評価

D坂の殺人事件(1997年製作の映画)
3.4
「江戸川乱歩作品はエロティックである」というのは今さら言うまでもないことだが、その色気は文章から匂い立つような淫靡さのことであり、乱歩的な淫靡さの源泉は、人間が心の内に秘めた「知的で傲慢な欲望」なのだと私は思う。そのため、この映画で幾度も繰り返される、過激なだけの安っぽい性描写には我慢ならない。乱歩の解釈違いが過ぎて受け入れ難い。脱がせればいいとでも思っているのか? 知性はどこへ消え去った!
とはいえ、その安っぽい性描写を完全に脇に置けば、(乱歩の闇鍋状態ではあるが)割と「江戸川乱歩的」であることは間違いない。特に真田広之さんは徹頭徹尾、完璧な乱歩世界の住人であってくれた。佇まいや視線、吐息のひとつとっても非常にアンバランスで魅力的。ほとんど本人にしか通じない「殺さねばならない理由」を持っていることも、その理由自体にも、非常に得心がいく傲慢な知性(=淫靡さ)を感じられて素晴らしかった。
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