Seiko

雪の轍のSeikoのレビュー・感想・評価

雪の轍(2014年製作の映画)
4.7
(ポスターに反して、)これは愛でも赦しの話でもなく、魂は雪解けるどころか雪の中で半ば永遠に閉じ込められ、誰もが結局身動きが取れず、エゴにまみれた自己と、理解し合えないと言い張る他者に不満を抱えながらそういう人生に埋もれていく物語じゃない?というのがまず個人的な所感。おもしろかった。

カッパドキアに長く厳しい冬がやってくる。辺り一面に雪が降り積もり、ホテルから客は去っていく一方、住人は、部屋の暖炉を中心として集まり、暖をとり、語りあう。そうした語りが次第に炙り出していく登場人物たちのエゴやプライド、偏狭さ、心許なさ、不自由さが、雪積もる冬のカッパドキアの閉塞感に投影される。

老いと若さ、西洋とイスラム、都市と地方、男と女、富裕と貧困、本音と建前、憎しみと赦し、善と悪、慈善と自己救済、理性と感情、行動と思考、こういう二項関係をあまりにセンス良く描いていて、ゆっくりと流れつつも決して冗長ではなく、密度の濃い3時間20分だった。けど、映像描写と会話劇を咀嚼するための集中力を維持させるのは大変だった。
テレビドラマと「演劇(tiyatro)」。
「演劇」にかかる高尚さという負荷。
悪への無抵抗(kötülüğe karşı koymamak)
うさぎは仕留められる。
妻は逃げられない。
最後の雪景色ショットは、あああ・・・と思った。多分春は来ない。

映像でトルコをみるのも久しぶりで、冒頭0.1秒ほど感極まった。
紅茶とクッキーは、緑茶と饅頭だと見た。
映像は一枚一枚の画として写真的で光の配置や濃淡、色合いが美しかった。

とりあえず色んな意味で、チェーホフを読みたい。
Seiko

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