鹿田鹿雄

アメリカン・スナイパーの鹿田鹿雄のレビュー・感想・評価

アメリカン・スナイパー(2014年製作の映画)
5.0
100点

初めに言っておくと、この映画は文句無しに満点にふさわしい映画だが、決して面白い映画ではない。

まずこの映画を際立たせる大きな点として、今作はクリス・カイル本人が自身の戦場での体験を描いた小説を原作なだけあって、他の戦争映画よりもすごくリアリティがある。
これに加え、劇中のほとんどは現実と同じように無音で進んでいくという構成によって緊張感が凄まじい。

しかし、原作をそのまま映像化したわけではない。
原作で丁寧に描かれていたカイルの心情は一切描かれず、彼のことを一方的に善とも悪とも描かれているわけではなく、ただ事実を淡々と中立に描かれている。
本人が書いただけあって戦争礼賛の印象が強い原作とは異なり、覆らない悲しい現実がしっかり描かれていて、鑑賞後は戦争とは何か、考えさせられる。
むしろ戦争否定の印象が強くなるのではないだろうか。

その戦争への印象を裏付けるのが、すっかり戦場にいることに慣れてしまったカイルと妻のタヤの戦争への思いに対する対比。
視聴者側の考えはカイル側か、タヤ側か、どちらの視点側に立つかによって戦争に対する思いが異なる筋立てになっている。

私にとってはマイナス点が一つもない完璧な映画だが、全員におすすめはしない。
しかし、原作小説を読んだ方、戦争映画が好きな方、人間ドラマが好きな方などには絶対に観てほしい一作である。
鹿田鹿雄

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