タキ

ヘイトフル・エイトのタキのネタバレレビュー・内容・結末

ヘイトフル・エイト(2015年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

駅馬車に5人、ミニーの店に5人いて合計10人。2人多い。御者のOBとジョディ・ドミングレはたぶん数に入ってない。2人はヘイトを吐いていない。今まで見た映画で1番ニガーという言葉を聞いたし、黒人がこれほど激烈に白人に報復するシーンも見たことない。全編ヘイトまみれ。ヘイトと暴力で相打ち全滅とは差別のなくならない世界の行先なのかもしれない。
ミニーの店に集まった面々はアメリカの縮図なのだと書かれているレビューをよく見る。確かにそう思うし、タランティーノが大きく描きたいのはやはり前2作に続き黒人差別なのはわかるとして、何の抵抗もなく殺された3人の女性(ミニー、御者のジュディ 、黒人の女性店員)とデイジーの最期をどう見るか。ラスト、ウォーレンとマニックスが手を組むくだりはミソジニーじゃないかとフッと思ったりしたがこれは考え過ぎだろうか。丸腰のウォーレンと自分を逃がしてくれたら死んだ仲間を賞金首として持っていけといううまい話をするデイジーとどっちを取るのか。デイジーは一万ドルの賞金首だが実際何をしたのかハッキリとわからないし、結局は裁判なしにその資格もない男2人に笑いながら首を吊られてしまう。命のかかった場面ではヘイトを乗り越えられる、逆にいうとヘイトを乗り越えるきっかけは命がかかった場面にしかないというわずかすぎる希望をラストに描いたと解釈しつつ、当時はその端緒もみえないフェミニズムにつながる視点をデイジーという存在に乗せたのではないかとちょっと思ったりした。
みんな嘘つきの密室ミステリという安易な括りにするにはいろいろ情報が多すぎて何回か見ても新発見がありそう。特にウォーレンの話のうまさ、その場を支配する物語(フィクション)力は驚異的だ。それは時に真実を上回る重さと鋭さを持って見る者聞く者の魂を明るくしたり地獄に突き落としたりする。映画を見ることもこれと同じ体験なのだとハッと気づく。フィクションを侮るなかれ。


密室劇に70mmフィルムの意味はあるのかという素人の疑問にクリアな回答をしてくれている良記事。面白いので是非。↓
種田陽平(美術監督)インタビュー
13年ぶりにタランティーノ作品に参加することになった経緯や、タランティーノ監督の人物像、タランティーノ監督がこだわった70mmフィルムでの撮影などについて
https://realsound.jp/movie/2016/02/post-1077.html

宇多丸、映画『ヘイトフル・エイト』を語る! by「週刊映画時評ムービーウォッチメン」2016年3月26日放送
https://wp-manage.tbsradio.jp/18305
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