MasaichiYaguchi

の・ようなもの のようなもののMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

4.0
故・森田芳光監督の「の・ようなもの」の35年ぶりの続編には、監督への愛といっていいようなオマージュが一杯詰まっている。
先ずキャスティングにおいて、監督の遺作「僕達急行A列車で行こう」の主演の松本ケンイチさんが主人公の出船亭志ん田を、そしてデビュー作でもあった前作の主演の伊藤克信さんが本作のキーマンである志ん魚を、そして伊藤さん同様に前作に出演した俳優たちが同じ役柄を演じ、その上監督の他作品の出演者たちがちょい役で登場したりする。
更には森田監督的な小ネタや小道具が随所にちりばめられていて長年のファンには堪らないと思う。
このような監督への愛ばかりだけでなく、本作にはモチーフとなっている落語やその芸の道を歩む者たちへの温かい愛もある。
主人公の志ん田は脱サラした落語家“のようなもの”で、生真面目過ぎて“遊び”の部分がなく、芸人としてパッとしない。
そしてキーマンである志ん魚も志ん田とはタイプは違うが、落語家として、人として何処か不器用だ。
そんな二人がある切っ掛けで出会い、夫々の生き方を見て影響し合っていく。
この二人のドラマは、東京の下町情緒が色濃く残る谷中を舞台に、地元の人々とのユーモラスな交流と共に落語のような感じで繰り広げられる。
そして肝心の、志ん田と志ん魚を演じる松山ケンイチさんや伊藤克信さんが映画の中で一席打つ落語は、二人の熱演もあってついつい聞き惚れてしまう。
この二人を盛り立てる周りのキャストたちも個性豊かで魅力的だ。
志ん田を振り回し、「下手!」と愛の鞭を入れる姉御肌の夕美を演じる北川景子さん、その父で師匠の志ん米役の尾藤イサオさん、飄々とした兄弟子・志ん水役のでんでんさん、出船亭を支えるスポンサーの女会長役の三田佳子さん、これらの主要キャストたちが奏でる演技のアンサンブルは寄席の出囃子のように明るく賑やかで心躍らせ、そしてホッコリさせる。
森田組と監督作品に出演したキャストたちによる落語家“のようなもの”から一歩踏み出した若者の青春を描く本作は、主人公同様に森田監督の遺志を継ぎながら前を向いていこうという人々の気持ちが伝わって来る。