錆田

顔のないヒトラーたちの錆田のレビュー・感想・評価

顔のないヒトラーたち(2014年製作の映画)
4.5
静かな、日常生活の一コマである導入場面が重い。
また、当時20代〜30代にかけての社会を担う世代が、綺麗さっぱりナチスの蛮行を知らないという恐ろしさ。本当にこんなんだったの?怖すぎる。

日本も敗戦国だから、ナチスであったことを隠し、口を噤む側の気持ちも何となく理解できる。けれども、双子の娘を理不尽で残酷すぎる暴力で殺されたユダヤ人の深すぎる悲しみ、恨み、辛さは想像を絶する。そして、そのような体験を何十万のユダヤ人がしたのだろうと考えると…。

主人公である若き検察官が、その正義感ゆえに己の立ち位置を信じられなくなり、自暴自棄になる場面は哀しい。ボスのバウアーが、彼の挑む仕事は「迷宮」であると言うんだけど、本当にそれだわね…。
またバウアーが、罰することが目的なのではないと諭す台詞にじーんときた。
未来に同じことを起こさせないために、今があるのだと。
バウアー氏については『アイヒマンを追え』など他にも映画作品もありますね(こちらも良かった)。

それにしてもナチスが残した資料の多さよ。几帳面なドイツ人らしさが発揮されてて、申し訳ないけど笑ってしまった。
そのアホの量の資料から、根気と正義感溢れる使命感で今を生きているナチスを探し出す主人公たちの奮闘は素晴らしい。
あの秘書のおばちゃんなんか、ユダヤ人の証言でどれだけ精神的にやられたのかと思うと、本当に辛い仕事だったよなと思う。
ラストの文章が未来に希望を持たせる良い映画だった。

主人公とヒロインの「服の破れを繕えるか」というダブルミーニングのやりとりも好き。繕えるんかい。
錆田

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