櫻イミト

毛皮のビーナスの櫻イミトのレビュー・感想・評価

毛皮のビーナス(1969年製作の映画)
3.0
マゾヒズムの語源となった小説家ザッヘル・マゾッホの「毛皮を着たビーナス」(1871)を初映画化。舞台を現代に置き換えて翻案した官能サスペンス。監督は「ソランジェ 残酷なメルヘン」(1972)のマッシモ・ダラマーノ。「イノセント」(1975)のラウラ・アントネッリの初主演作(当時28歳)。

【あらすじ】
小説家のセヴリンは執筆の為にホテルに滞在し、部屋の壁の穴から隣室を覗くことを日課としていた。幼少期、使用人の男女の交わりを盗み見て咎められたことに陶酔を覚え、以来屈折した性癖を抱え続けていた。ある日、隣室にやってきたワンダ(ラウラ・アントネッリ)に一目惚れした彼は猛烈にアタックをかけやがて結婚。セヴリンはワンダにアブノーマルな懇願をする。それは、自分は下僕になるので彼女は他の男と性的関係を持ってほしいという被虐的なものだった。。。

マゾッホ原作の映画化は初めて観たので非常に興味深かった。原作とは結末が変えられているそうなのでマゾヒズムに関する考察はしにくいが、サイコ・サスペンスとして楽しめた。

主人公は彼女に対し、自分を肉体的精神的に痛めつけてほしいと頼む。最初は抵抗感を示していた彼女だが、言われるがままに行動するうちに加虐が強まっていく。強まるほど悦に入る主人公。しかし、やがて彼女が「この変態!」と罵り他の男と親密度を深めていくと、加虐としてはMAXに強まっているのに、主人公の気分は消沈していく。徹底的な被虐を望んだはずなのに・・・この心理戦はなかなか面白い。

イージーリスニングの様なチープな劇版はキッチュな味わい。不満だったのは官能シーンが冗長に感じられたことと、主演ラウラ・アントネッリが不健康そうに映っていて何も魅力が感じられなかったこと。性愛がテーマの映画として致命的な弱点だった。

本作はマルキ・ド・サド原作映画のような耽美性はなく、演出も撮影も異常性愛サスペンスの趣。ダラマーノ監督は後にジャッロ映画の名手として活躍、撮影のセルジオ・ドフィッツィはフルチ監督の「マッキラー」(1972)を手掛けて名を上げるので、その志向は幻想美学よりも“ハッタリの美学”に向いているのだと思われる。

マゾヒズムの真髄は本作では解らなかったので、以降の同原作の映画化作品を数本追いかけてみたい。

※日本版DVDは、OPタイトル開けに1秒ほど無関係な中年男性のカットが入っている。原版はここにワンシーンあったのかもしれない。
櫻イミト

櫻イミト