ピュンピュン丸

マーロン・ブランドの肉声のピュンピュン丸のレビュー・感想・評価

マーロン・ブランドの肉声(2015年製作の映画)
4.9
「映画」としては満点をつけられないが、一人の演技の「天才」の記録として、映画史的資料としては、軽く5点を振り切る。

それだけ深く重いメッセージがこめられた映画だ。

『マーロン・ブランド』という、戦後文化史の巨人を思うとき、自分のような一映画ファンでさえ、様々な思いが去来し、何を書くべきかなかなかまとまらない。

とにかく天才は意図的な努力だけでなく、さまざまな偶然によって磨かれ、研ぎ澄まされ、誕生する。DNA、家庭環境、出会い、時代など、本人に降りかかる様々な偶然のような出来事が、才能を磨いていく。そして、恐ろしいほどに繊細な感受性と不正になじめない純粋性、そして感情量の多さが社会に適応しづらくさせる。

アクターズ・スタジオの少し後輩のポール・ニューマンと比べると、自己抑制力の違いがまざまざだ。誰のようになりたいかと問われれば、一瞬の躊躇いもなくポール・ニューマンだが、たった一つ最高の演技を選べと言われたら、やはりどうしてもマーロン・ブランドになってしまう。それが天才の天才たるゆえんだ。

天才が豊かな人格の衣をまとっているケースもないわけではない。長嶋茂雄は間違いなくそう。しかし異なる例も多い。天才であること、大きな屋敷に住めることが、必ずしも幸福ではないことが、この映画をみるとよく分かる。

出会いといえば、スタニスラフスキーシステムをロシアから持ち帰ったステラ・アドラーとの出会いが、ブランドの人生を飛躍的に変えた。彼をスターダムに押し上げた名作『欲望という名の電車』で、その妻の名はステラだが、劇中、彼は役のなかで、「ステラ!」を何度も絶叫する。(偶然ではないような気もする。)これがとても印象的で、仲代達矢などはよく真似して鉄橋の下で叫んだという。そのスタニスラフスキーシステムだが、今では功罪あると言われている。最近ではヒース・レジャーの例がある。

まあ、とにかく。自分にとって思い入れのある作品は以下のよう。いずれも映画中に映像とブランドのコメントが聞ける。

【演技】
欲望という名の電車
波止場
ゴッド・ファーザー
ラスト・タンゴ・イン・パリ

【話題】
裸足の伯爵婦人 ※チャップリンと
地獄の黙示録 ※コッポラと
スーパーマン ※ギャラ

【唯一映画館で】
ドン・サバティーニ
※唯一コメディで成功では?

天才は、人生が一篇の詩のよう。神は、人々に人種差別問題に気づかせるために、演技の才能をあたえてマーロン・ブランドをこの世につかわした・・・と思ってしまう。彼がいなければ、インディアンにたいする偏見が改まることはなかったと思うし。ハリウッドから人種ごとのキャラ設定が改まることもなかったはずだ。