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メートル・フ/狂気の主人公たちのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

2.5
【悪意ある泡吹くガーナ人像】
先日から再び『死ぬまでに観たい映画1001本』完全クリアを目指して映画活動に励んでいるチェ・ブンブンです。今回は、短編ドキュメンタリー『メートル・フ/狂気の主人公たち』を観ました。本作は、何と言っても泡を吹いているアフリカ人に衝撃を受けるということなのですが、想像以上に問題作であり、今となっては文化人類学ドキュメンタリーとして不動の地を築き上げたジャン・ルーシュの狂気を感じる作品でありました。

ジャン・ルーシュは文化人類学者であり、ドキュメンタリー映画の巨匠として知られているが、アフリカ映画史においてある種、最狂のヴィランとも言える。アフリカ映画史が欧州の資本が入ったアフリカ映画と、アフリカ人のアフリカ人によるアフリカ人の為の映画を明確に区別する日本映画史とは異なる厳格さを持つのは、アフリカ映画史は、欧州の啓蒙主義的映画の持ち込みと、文化消費としての眼差しに対する反発があるからだと言える。実際に、アフリカではブルキナファソを中心にアフリカ人のアフリカ人によるアフリカ人の為の映画を維持する機関、映画祭があり、独自の映画文化の構築と維持に尽力している。

閑話休題、その歴史を踏まえジャン・ルーシュを捉えると悪意ある文化消費の眼差しがある。『人間ピラミッド』ではコートジボワールにアフリカ人差別を演じるフランス人を送り込むトンデモ思考実験を映像に捉えた。ラース・フォン・トリアーの『イディオッツ』級に善悪の彼岸を超絶技巧の演出で描く様に、観客は絶賛の心と拒絶の心の狭間で引き裂かれそうになる。

『人間ピラミッド』程悪意はないのだが、その無意識なる悪意が強烈な作品が『メートル・フ/狂気の主人公たち』である。まず、タイトルに注目していただきたい。Les maîtres fousとは直訳すれば《気狂い教祖達》だ。ガーナの首都アクラに存在するハウカ運動を捉えている。ハウカ運動とは、植民地占領者のをイタコのように己の身体に憑依させていく儀式のようなものである。しかしながら、ジャン・ルーシュが捉えるハウカ運動の側面は、基本的にうだるような暑さの中で、ドラッグのようなものに溺れていく者、銃や動物の血液が散らばる野蛮な姿だった。

恐ろしいくらいに、白い泡を吹きながらぴょんぴょん飛び回り白目を剥きながら痙攣するガーナ人に観る者は目を覆いたくなるでしょう。1955年代、スマホなんてものはないので世界を鮮明に知るメディアは映画であった。今でいうと、youtuberが北朝鮮や、危険地帯に潜入し、驚愕のレポートを発信し、異文化消費するのと同様にジャン・ルーシュはガーナの偏ったハウカ運動を捉えていた。皮肉なことに、ジャン・ルーシュは画作りが上手すぎるので、脳裏に焼き付くことは間違いない。

しかし、本作は『人間ピラミッド』同様にアフリカ映画史にとって負の映画遺産と言えよう。
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