はぐれ

彷徨える河のはぐれのレビュー・感想・評価

彷徨える河(2015年製作の映画)
4.1
コロンビアのジャングルに住む故郷をなくした先住民の男と学術調査に来た西洋人の男との衝突を描いた物語。

全く異なる哲学を持った2人。現地で見聞きしたことをいちいち紙に書き残し知識を無尽蔵に蓄えることに喜びを覚える西洋の学者とその日生きていく最低限の知恵を脳内に染み込ませて暮らす先住民。出会い方が象徴的。先住民が岩壁に石で描いた壁画を見てその絵の解説を求める学者に対して「そんなものは忘れた。絵が薄くなる度に記憶も失われていく。」と返す刀で切る先住民の含蓄のある回答が爽快。

所有に関する考え方も実に対照的。初めて見る自分が写った写真を渡され返そうとしない先住民。当然、学者は私が撮ったのだから所有権は自分にあると主張するのだが、先住民からしたら自分の分身なのだからこれは自分のものだと強く主張する。目からウロコだよね。カメラマンの知的所有権なんか本来守られるものじゃない。被写体にこそ権利があると原始的な理論で説き伏せてくる。

大病を患ってもなお現地のレポートをしたためた膨大なノートの束を汗水たらしながら重そうに運ぶ学者。その姿は滑稽そのものだよね。知識の量にしがみつき生きていく本来の術を失った文明人。
現地の民からすれば自分達の暮らしぶりをドイツに持ち帰って広められることに何のメリットも感じないし、今の暮らしに満足しているのだから国際交流とかしゃらくさいことはどうでもいいから放っといてほしいというのが本音だろうね。

善意の押し売りで布教しようとするキリスト教も船を沈めるほど重たい蓄音機から流れるハイドンの交響曲も南米のジャングルには似つかわしくない。「動物はジャングルのもの」という原住民の言葉ほど神を感じる一節はないし、鳥のいななきや葉の擦れ合う音に勝る音楽なんてこの世にはない。

今の時代だからこそ見直されるべき2010年代の名作。
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