ラウぺ

ラスト・タンゴのラウぺのレビュー・感想・評価

ラスト・タンゴ(2015年製作の映画)
4.0
40年ものあいだ伝説のタンゴ・ペアを組んだマリア・ニエベスとフアン・カルロス・コペスのインタビューと過去を振り返る再現シーンをタンゴで見せるドキュメンタリー。

単なるインタビューという枠を超えて、伝説と呼ばれる二人にそれぞれの思いを語らせることで、50年の間に起きた愛憎と波乱の人生模様がにじみ出て、思わず身を乗り出してしまうほどに引き込まれました。
男女でペアを組んで一つのダンスを完成させる、ということは不可避的にそれぞれのプライベートな領域に踏み込んでしまい、結局ドロドロの愛憎劇に至るわけですが、それでもなお、タンゴの世界に生きる二人にはお互いが余人をもって替え難い。このジレンマがいかに過酷だったのか、ペア解消後20年近い年月を経ても反吐が出るほど相手を憎みつつ、その技に一目置かざるを得ない切なさが、大変印象に残りました。

マリア・ニエベスとフアン・カルロス・コペスそれぞれの言い分にはそれぞれ納得できるものがあるのですが、双方の主張はまったく別次元の話で、人の業ともいえる溝の深さに驚愕せざるを得ない。
共通する点はそれぞれのタンゴに対する思いのみ・・・できればもっと話を聞いてみたい、という感じさえするのですが、要所要所で挿入される過去の場面を再現するタンゴのシーンもまた大変素晴らしいものがありました。
キレのあるリズムと完璧にシンクロする足さばきを見ていると、タンゴは門外漢の私にも未体験のものにはじめて触れる驚きを感じました。

芸術のために生き、現実の人間関係に悩む、という二人の体験談は実のところ市井の人々の間にもスケールこそ違え、あらゆるレベルで起きていることで、他人事とは思えないリアルさがありました。
それにしても、混ぜたら危険なこの二人をひっぱり出し、本音をさらけ出すことに成功したばかりか、見てのお楽しみな二人の登場場面をしっかり撮ってしまう監督の手腕にはもっと驚かざるを得ませんでした。
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