潮騒ちゃん

ホワイト・ラバーズの潮騒ちゃんのレビュー・感想・評価

ホワイト・ラバーズ(2016年製作の映画)
4.0
「そばにいることが愛だと知った」というセツナ甘いキャッチフレーズと、キラフワに加工されたジャケット。無理矢理ロマンスに寄せた売り出し方に物申したい。ウソつけコラー!この映画に胸キュンはない。注意書きが必要なレベルでキラキラしてない。騙されて借りた人が気の毒だ…。瀕死の心を抱えた男女が寄り添う。隅から隅まで暗然たる空気。二人はそれぞれ、過去のトラウマに縛られているらしい。詳しくは語られないし何故一緒にいるのかも説明されない。ただ伝わるのは、時間による解決も内出血の完治もありえないのだろうということ。どこまでも灰色な男女の表情がそれを物語っていた。痛いところを舐め合った次の瞬間にはかさぶたを剥がし合う二人に、がんじがらめの愛を見る。デイン・デハーンとタチアナ・マスラニー、どちらとも息を吸い込むだけで痛そうだ。肌を重ねるシーンの悲壮感たるや。うんざりするような鬱屈が粘りついている。それに加え北極の寒さ。程度は違えど弱っている時の氷点下がどれだけ堪えるかは雪国生まれなので知っている。体温も感情も手放して、いっそ氷ってしまいたい。そういう絶望が肌感覚で伝わる映画だった。幻想や幻聴など、確かにわかりづらい演出も多い。売り出し方も間違っている。ただわたしはこの映画がとても好きだ。特にラストシーン、見渡す限りの切なさにため息が吹きこぼれる。肺が空っぽになりそうだった。無慈悲で美しい銀世界、向かい合う瞳の柔らかさ。ああなんてカタルシス…。誰にも見つからずレンタルショップの片隅でホコリをかぶるくらいが丁度いい。このままずっと、二人きりで真空パック。
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