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ザ・シェフ 悪魔のレシピのbutasuのネタバレレビュー・内容・結末

ザ・シェフ 悪魔のレシピ(2016年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

圧倒的に宣伝方法が悪い。このポスターでは誰だって"B級グロホラー"を想像するだろう。実際の中身はむしろ重苦しい社会派のサスペンスだ。

主人公サラールは町のクズどもに父親を殺されており、その復讐でクズを次々と殺していく。ここの死体処理方法である"人肉ケバブ"だけを切り取ってこのような宣伝方法になってしまったのだろうが、これはあくまでもサスペンス的な隠蔽の手段でしかない。その証拠にグロテスクな解体の過程がしっかりと描かれるのはほぼ初回だけで、後半に至っては一切のグロ描写がない。

サラールが受ける人種差別や社会構造の問題、サラールが真っ当に生きていたらのifとしてのサラという女性、サラールに近づく若者の心境の変化、など描写は凝っており重たい。町のクズどもがあまりにクズ過ぎて、観ている我々は完全にサラールに感情移入してしまう。しかし、殺人は殺人であり、彼には当然裁きが下ることになる。

サラと出会い、監禁した男からの謝罪を受け、サラールは全てを止めることを決意する。しかしその直後、街のボスであるブラウンに刺され、彼は街の片隅で誰にも目に止められないまま死んでいく。「彼が投稿した暴露動画によってブラウンが逮捕される」という幻想と「彼が逃がした男が何の改心せずもクズのまま同じ行為を繰り返している」という現実をボンヤリと見ながら。あまりに辛くやるせない。せめて前半が現実であればと願うが、あの見せ方と「匿名投稿者お手柄!」という内容からして、ほぼほぼ彼の妄想であろう。

サラールに同情しすぎる我々を引き戻してくれるのも、やはりサラであり、彼女の「責めるのは簡単」「彼らから利益を得ている私達の責任は?」という中盤の台詞が重く響く。サラの存在があることで、この映画はサラールの気持ちに寄り添いながらも彼の行為を肯定しない、絶妙なバランスに仕上がっていると思う。
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