ふじこ

ディア・ファミリー ~あなたを忘れない~のふじこのネタバレレビュー・内容・結末

3.5

このレビューはネタバレを含みます

母親が認知症となり、冬の最中寝巻きで外を徘徊したことから、一度実家に戻る女性ビティ。
実家では老いた父と、近くに住みバーを経営する兄ニッキーがおり、ニッキーは徘徊の始まった母を施設に入れるべきだと主張するも、父は強く反対する。
所謂"まだら呆け"の段階である母は基本的に朗らかに過ごし、分かったり分からなかったり。
昔から父の言う事をきいてその通り生きてきたせいで父に強く言えないビティだったが、父の勧めで結婚した相手の事を愛しておらず、幸せだと感じてはいなかった。
ってお話。

基本的には老々介護なんだけども、何かあったらすぐにニッキーの元に電話がいくし、施設に入れるべきというニッキーの主張は正しいのだと思う。
"幸せの鐘は鳴らない、愛は耐えること、相手に尽くすことだ"と父は繰り返すけれど、それでも離れがたいほどに妻を愛していること、自分は世話も出来るはずと思っているのはとても分かる。
だからこそ、何故そんな言葉を繰り返すのか…。今が"病める時"だから…?死が2人を分かつまで共に居なくてはならないからだろうか。

ニッキーは父から自分が出来損ないだと思われている、と思っており、実際にニッキーのバーに父親は来たことがないと言う。更に母親の後見人は妹であるビティだし、重圧だけを受け取って、自分に自信が持てずに結婚にも躊躇ってしまう。なんだか半分以上このニッキーの気持ちばかり考えていた気がするわ。

最終的に、また家を抜け出したと思った母を探して家を飛び出した際に(実際は同じマンションの別の部屋に行ってた)倒れてしまった父がニッキーの持ってきた施設の契約書にサインをするも、その後すぐに自分が亡くなってしまう。
これが葬儀なのか、誰が亡くなったのかイマイチよく分かっていない母だったけれど、夜中にふと正気に戻ってベッドに入ってきたビティに囁く。

完璧なタイミングだった
もっと遅ければ―― 彼を忘れ去ってた
もっと早ければ 恋しすぎた
今がちょうどいい
今なら それが分かる

わたしは幸いにもまだ正気であると思えるけれど、この思いに至るまでの母はどんな気持ちだったんだろう。
夫を亡くすのに、ちょうど良いタイミング。
夫には自分よりも長く生きてほしいと思っているわたしには、想像すら難しいのだけれども胸に深く突き刺さった。
これからきっと症状が進んだり、また正気に戻ったり、正気の時に不安になったり、それすらも忘れてしまったりすんだろうけれど、母自身が完璧なタイミングだった、と言うのならそうなんだろうなぁ。

父が亡くなる前に、感情を吐露したニッキーの気持ちを汲んでバーにやってきて、自慢のカクテルを飲んで褒めてくれた事が嬉しいし、ずっと幸せではないと思っていたビティが遂に勇気を出して夫に別れを言い出す事もまた、人生が先に進んでいるって事なんだろうなって思う。

父が亡くなってニッキーの代わりに母を引き取り、施設の美しい庭でお喋りしたあとに記憶が混濁してしまった母を見送る時の、あの少しだけ苦々しいような笑顔と、母が父を揶揄する"七面鳥(おバカさん)"を目にした時の表情が色々な気持ちを語っているようで、胸がキュンとして終わった。

親の老い、という辛くて悲しい現実と、それでも受け入れなくてはならない現実の年齢の人には特に刺さるんじゃないかなぁと思う。
昔に比べてすっかり小さくなってしまった両親が恋しくなるし、ある程度の覚悟を持ちつつも、"ピンピンコロリ"ってよく言ったものだなぁって考えざるを得ないなぁ。
ふじこ

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