ちろる

フジコ・ヘミングの時間のちろるのレビュー・感想・評価

フジコ・ヘミングの時間(2018年製作の映画)
4.1
フジコ・ヘミングと廻る世界の旅。

ピアノのCDなんて興味なかった私が初めて買ったのがフジコヘミングの「ラ・カンパネラ」のアルバム。
たまたまテレビで彼女のドキュメンタリーを観て彼女の奏でる音色、動物たちとの生活、日本人離れしたその風貌に虜になって一気にファンになったからだ。
見た目は荒地の魔女的な(失礼)雰囲気だけど、話し出すとまるで少女のまま止まったような不思議な雰囲気がある。
厳しかった母の文句を口にしながら気がつけば母のことばかり話してしまう。
自分たちを見捨てたかもしれない父のルーツを心から愛してる。
ロシア系スウェーデン人の父と日本人の母の血を受け継ぎ、多感な時期には嫌がらせをされて突然田舎に疎開する。
そんな、辛い思いをしても彼女は自分の家族を愛してやまない。

音楽の天才少女と謳われながらも、国籍不明な故にヨーロッパへの留学が叶わず、ドイツ大使の尽力により難民としてベルリン音楽大学への入学を果たす。
貧しくてひもじい日々をやり過ごし、ようやく出会えた恋もあっけなく通り過ぎる。
日本で散々「ガイジン」だといじめられて、ヨーロッパでも異邦人扱いであった彼女にはやはりピアノしかない。
辛い想いをしてきた彼女だからこそ奏でられるその調べは、まるで生き物のように人々の魂を震えさせて、彼女のピアノの調べは魔法のよう。
最後の最後まで、彼女の魅力を余すことなく堪能させてもらった贅沢すぎるドキュメンタリー。

「天国は幸せしかないってなんかつまんないじゃない。」
辛いことをたくさん乗り越えてきた彼女だからこそ発するその言葉の重みが、私の未熟さを突いて、「人生まだまだこれから!」と、思えるようになった。
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