かのん

それだけが、僕の世界のかのんのレビュー・感想・評価

それだけが、僕の世界(2018年製作の映画)
3.6
元プロボクサーのジョハ(イビョンホン)は、かつて東洋チャンピオンだった見る影もなく落ちぶれ、その日暮らしを送っている。ある日、ジョハは幼い頃にアル中DVの父から自分を置いて逃げた母と17年ぶりに再会し、サヴァン症候群を患う弟のジンテ(パクジョンミン)の存在を知らされる。母が不在になる間、ジンテの面倒を見てほしいと頼まれたジョハは…

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結構ベタなストーリーだけれども、優しく、そしてジョハ目線で観ると切なく哀しい話だった。

序盤はジンテ美脚だな、という感想。ジンテは知的障碍を患いながら、ごく特定の分野に突出した能力を持つサヴァン症候群を持っており、楽譜は読めないが一度聴いただけでその通りにピアノを奏でられる才能の持ち主。ジンテ達の家主の娘で高校生のスジョン(チェリ)は、たびたびジンテの元へ遊びにくる。ジンテへの好き好きアピールを完全スルーされてもまっすぐな姿に好感が持てる。

母のインスクはジンテを気にかけ、大切に育てている。「●●もできないのか」と文句を言うジョハに対して、「できることもたくさんあるわ」と答えられるの、素敵なお母さんだなぁと思っていた。序盤は。

アル中でDVをはたらき、刑務所に送られた父親と自分を置いて逃げた母親のせいで、ジョハは中学の時から1人で生きてきた。そして17年ぶりに再会した母子。あの時は申し訳なかったと謝るインスクだが、ジンテが関わるとすぐジョハが何かをした、と疑ってかかって信頼0であまりにも哀しい。
どちらも産んだ子、育てた子には違いがないのに。自分はジョハを守ってあげられなかったのに。

しばらく家を離れることになったインスク。その理由を知って彼女を訪れたジョハと語るシーンでグッとくるものがあったが、ジョハとジンテの2人で訪れた時にジンテをベッドに呼んで抱きしめる姿を見ると、ジョハはどんな気分でこの光景を見なければならないのかと感じた。最後の最後まで、インスクにとって最愛で心残りで心配な存在はジンテなのだと改めて感じさせてしまった。

そして、そんな両親でも、刑務所にいる父親に会いに行き、母親にも会いに行く、ジョハは心の底から親の愛情を欲していて、どこかしらにそれが手に入るという期待感を持っていたのだと思うとさらに辛かった。

良い話でストーリーは完結するが、それはジョハが心の奥底にしまい込んだ思いがあってこそ、と思わせる、ちょっと苦いお話。
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