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この道のodyssのレビュー・感想・評価

この道(2018年製作の映画)
3.0
【佐々部清監督の限界】

素材が面白そうだったので映画館に足を運びました。
前半は悪くなかったのですが、後半が「うーん」でしたね。

前半は北原白秋の、人間としては「?」ながら天真爛漫で詩心のある人物像がそれなりに描けています。

問題は、第一に山田耕筰の人物像がそれに拮抗していないこと。
あの時代にドイツに留学して西洋音楽の基本を習得して帰国する、というのは並大抵の事ではなかったはず。今のようにCDやテレビの音楽番組なんかなかった時代ですからね。

でも、この映画では山田耕筰のそういう「偉大さ」があまり見えてこない。

第二に、後半は戦時中の話になるのですが、ここがちゃんと描けていない。
ここでは、羽田美智子演じる与謝野晶子の「大人の対応」がむしろ説得的。
単に戦時中の表現の自由の不自由さを呪うだけでは、後世のキレイゴトの作品にしかなりません。

この映画では分からないのですが、実は山田耕筰の戦時中の行動については色々なことが言われています。つまり積極的に戦時体制に協力した、というようなことですね。

しかし仮にそうだったとしても、私はそれが悪いことだとは思わない。それで言うなら、ディズニーだってアメリカの戦時体制に積極的に協力したんですからね。「戦争反対」の人は、ディズニーの作品を見てはいけない、ということになる。

そういう点をつきつめて描くことができなくて、何となくの情緒で終わってしまうのが、佐々部監督が一流になれない所以。広島への原爆投下を描いた『夕凪の街 桜の国』もそうでした。

佐々部監督の限界が、改めて示された作品と言うしかありません、残念ながら。
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