松井の天井直撃ホームラン

騙し絵の牙の松井の天井直撃ホームランのレビュー・感想・評価

騙し絵の牙(2021年製作の映画)
-

☆☆☆★★

GW初日、緊急事態宣言発令中の最中。《不要不急の外出は控える様に》と言われているのに、映画1本余裕で観られるくらいの電車賃を使って映画館へと行く…。

「ごめんなさいm(_ _)mごめんなさいm(_ _)m」

訳有って3月の中頃から発症した持病から月末には歩けなくなり、以降約6週間近くの間を寝込む羽目に。
先日やっと歩ける様になったんです。
《不要不急の外出》は間違いない。いけない事…とは知りつつも、どうしても映画館へ行きたかったんです(p_-)
その代わりに4本観られるところを、2本に抑えますから。神様お許しくださいませ_| ̄|○

…って事で『騙し絵の牙』であります。

原作読了済み。

流石に原作者の証言で、事前からの映像化を想定し。主人公に大泉洋をあてて描いた小説は、まさにピッタリと言ったところで。読みながらも、元から映像化を当て込んだと思え。小説自体が、様々なキャラクターから発せられる丁々発止な会話の妙であり。魑魅魍魎な人物達の暗躍は、読み応え満点ではありました。

原作自体は、一見すると紙媒体が著しく衰退を招き、それと同時に躍進するネットウエブ事業。
何処か映画産業にも通じる様な、そんな出版業界の苦悩を巧みに利用しては、自社の社長ポストを狙っての勢力争い…に見せかけて。主人公が本当に望んでいた事が、最後の最後に明らかになる。

それが本当は…

まさかまさかの『◯の◯』逆バージョンだったとは驚いたモノです。
『砂の◯』は、自分の過去を絶対に知られたくない人生の成功者が。それを知り〝 過去の自分 〟に会いに来た男。それを助ける者等を排除して行く…とは言いつつも。心の何処かには、犯人にも父親の無事を祈る心が有ったのではないか…とゆう。執念で連続殺人事件を解決に導いた刑事の、気持ちが感動を呼び込む作品でした。

『騙し絵の牙』は、その『砂の器』の根底にある部分を再構築し。逆転の発想を押し進めた様なエンディングになっており。どうしても、若くして生き別れてしまった父親に…。

お父さん!僕は此処に居るよ!お父さん!此処に居るよ!」…

…と呼びかけながら。だからこそどうしても紙媒体である、自分が編集長を務める雑誌を廃刊にしてはならない!お父さんとの唯一と言える連絡手段を失いたくは無かった、、、とゆう物語でした。

だからこそ、原作を読み終えた時に。映像化に於いて、単なる社長ポストに絡む騙し合いバトルにだけはならなければ良いな〜と思ったものです。
自分は、決して原作至上主義者ではないのですが。この作品に於いては、主人公が1番守りたかった父親との連絡手段…それが雑誌だった。
それこそが、この小説の【肝】だったと思ったから。

それだけに。読了後に公式サイトの人物相関図を見た瞬間、呆気に取られてしまい。途端に嫌〜な予感に襲われてしまった。

「これ、、、絶対に別物だな!」と。


尤も、それでより面白くなれば良い…とは思いつつも。考え込んでは「それは無いな」…と。
これはもう、長年に渡って映画を観て来た【カン】って奴ですね。
どんなに他人が面白かろうが、お金を出して観た自分が満足出来なければ意味が無い…って事なんですけどね。

結果は、、、まあ〜。

思った程には悪くは無いな〜、、、と言うか、そこそこは楽しんだってところでしようか。
多分ですけど、原作通りのところって。おそらくですけど、薫風社・トリニティ・宮藤の失脚(失脚の仕方は違うけど)後は何だ?登場人物達のキャラクター等を、原作を読んでいると分かるアレコレ。それらをあっちこっちへと振り分けていたりする部分を別物とすると、それくらいだっただろうか?
あ?二階堂大作の「忍びの本懐」のコミック化の一部分だけは原作通りかも。


この部分を巡る原作の騙し合いこそは。大物作家を抱え込み、テレビ局・コミック・実写・パチンコ・アニメ業界等。そこから派生する2次使用によって生み出される大金を巡っての出版業界。それに擦り寄りつつ、お互いの利権の為に暗躍する騙し合いこそ、原作部分での1番ワクワクするところでした。
が…等と言ったところで。映像化に於いて全く描かれる事が無かっただけに、それらが盛り上がりもしなかったのは残念なところでした。

でもほんの1部分で驚いたのは、原作の父親関係の部分をリリーに振り当てていたところ。
予告編や、人物相関図に於いて。「コイツは一体どうゆう立ち位置?」と思っていただけに。この部分だけは正直予想外ではありました。
(ほんの少しだけ、高野の父親像にも振り分けてはいる気もします)

それにしても、原作通りのところは全体の2%程度だったかも。
何よりも話の縦軸が、社内の政権争いであり。1人1人がそれに振り回される図式。
でも、出来上がった作品には。それらの覇権争いがそれほど深くは描けていたとも思えず…。
寧ろ登場する1人1人が、自分自身を保身する事の方が強く。(タバコの灰皿を持って来る描写は秀逸でしたが)その辺りの面白さも、それ程あったかなあ〜とすら。
我が家坪倉自体は頑張ってはいたが。そんな柴崎のキャラも、原作では素知らぬ顔を保ちながらの狸振りな面白いキャラクターでしたが。この映像化では、その都度その都度あっちへ行ったりこっちへ行ったりと、ブレブレなキャラクターだったのは…。
逆に、原作だとほんのちょい役な小林聡美のキャラクターは、存分に生かされていた。
そんな此方の思いは、その昔に山本薩夫作品等を観て来た映画フアンだったならば多少は理解して貰えるのじゃないか、、、と💦


つい最近、『桐島…』を観返し。思わず号泣してしまったのですが。当時の松岡茉優を全然覚えていなくて、今改めて観た時に…「当時は何故注目しなかったのか〜〜〜〜!」と、改めて自分自身を責め立てたモノでした。
それだけに、原作だと主人公速水の愛人でもある高野の役柄を、松岡茉優にあてたのは「一体どうなるのだろう?」と。映画フアンとして観る前の楽しみ…いや、喜びでもありました。
何しろ原作だと、高野は話の途中から消えてしまい。単なる脇役キャラでしか無かっただけに。

そして主人公である速水役の大泉洋。
確かに原作自体が彼を想定されているだけに。内容自体を完全に変更したとしても、このキャラクター自体にはそれ程の違和感は無かった。
但し、このレビューの最初の方にも記した様に。原作の【肝】である〝 父親への想い 〟を切って捨て。自分の能力を認めてくれる人、又は出版社があるならば。どんどんと其方へ舵を切る人物像と言うのは、ある程度は面白くはなるでしょうが。ありとあらゆる人の心に入り込める人物像では無かった…とは思う。
その辺りが、自分としてはそこそこは楽しんだものの。今ひとつ映像化に於いてのめり込む程の作品では無かったなあ〜と。

それにしても見たかったなあ〜!

愛人関係にある速水と高野のベッドシーンと、速水のとっておきの秘技である◯リ◯ン土◯座(´Д` )

2021年4月29日 TOHOシネマズ流山おおたかの森/スクリーン5