幽斎

ブルー・ダイヤモンドの幽斎のレビュー・感想・評価

ブルー・ダイヤモンド(2018年製作の映画)
3.6
一番好きな俳優Keanu Reeves。出演作の基準が「ギャラ」とか「ヒット性」では無く「人間関係」。その彼を演技派と思ってる方は少ないだろう。「スピード」でブレイクし「マトリックス」でスターに成った。そして長い低迷期を「ジョク・ウィック」シリーズでカムバック。一方で「ビルとテッド」の様なコメディ、「マイ・プライベート・アイダホ」の様なジュブナイルにも出演し、幅広い役を演じられる実力も兼ね備える。

ジョン・ウィック「チャプター2」から「パラベラム」までの3年間で未公開作を含む9本に出演するハード・スケジュール。彼こそ働き方改革が必要な気もするが、本作は自ら資金を出して出演。インタビューで「ロマンスとスリラーを合わせた悲恋物語を創りたい」と語ってる。今回は大作の合間に出演する恒例の箸休め作品、過度な期待は禁物。

「ブルーダイヤモンド」京都のデパートに勤める友人からの情報。無色透明が最高級品。その定説を覆したのがイエローダイヤ。ダイヤモンドが結晶化する際に入り込む不純物の変化に因って、レッドやブルーにも成る。ホウ素が混ざる事で変色するブルーダイヤモンドは、その希少性から市場にすら出回らない。地中深くに、殆どホウ素が存在しない事から、化学的にも謎の多い宝石。2014年にオークションで出された原石には1億8000万円の高値が付いた。宝石商でも一生に一度、見る事が出来るか否からしい。

本作は「ジョク・ウィック」生みの親で有るStephen Hamelの原案。彼とKeanuは「フェイク・クライム」でコンビを組んだ仲で、レビュー済の前作「レプリカズ」がKeanuが娘を死産で亡くした実体験を投影した作品の筈だったが、プロデューサーから文芸的なSFでは客は来ない、と脚本が途中で改竄されHamelは怒りの撤退を余儀無くされた。それをKeanuが悪いと思ったのか、Hamelが長年温めた「ビターな大人のKeanu」を映画化。Keanuは脚本をScott B. Smithに依頼。スリラーの傑作「シンプル・プラン」でオスカー脚色賞候補にも選ばれた才人。彼の脚本は70年代に作られたノワールを彷彿とさせ、鮮麗されたフェティシズムを描く。

Smithが描きたかったのは「本物のダイヤモンドvs.偽物のダイヤモンド」つまり「真実の愛vs.偽りの愛」。本物より偽物の方が良く見える、と言うのは宝石に限らず様々なジャンルで存在する。美しさと言う真理と、本物の本当の価値と言う斜めの視点がポイント。ダイヤモンドの真贋をテーマに、愛の真偽性を問うプロットは流石に良く出来てる。ダメなのはMatthew Ross監督の演出「フランク&ローラ 魔性のレシピ」は意外と良かったのに、一体どうしたと言うのだろう。撮る「絵」は良いのに、編集が雑過ぎてプロットごと搔き消されてる。配役に附いても皆さん御指摘の通りで、本作の評価はサッパリ(笑)、チッとも面白くないのは私も認めざる負えない。

ダメな理由は作品が観客の方を向いておらず、監督の自己満足に映っても仕方ない。Keanuの能面的表情はスリラーに合う様に見えるが、滲み出る人の良さから実は相性が悪い。同じく何を考えてるか分らない系で少しだけ私に似てるPatrick Wilsonは、逆にサイコパスを演じるのが上手い。本作は「Keanuざんまい!」として、様々な表情を堪能出来るアイドル的側面しか取り柄が無い。原題「Siberia」同様、内容も寒い。

「純粋」と「不純」を併せ持つブルーの輝き。映画はビジネスだけじゃない、そんなKeanu らしさは感じられた。
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