おりひめ

劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデンのおりひめのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

物語 10点
配役 10点
演出 10点
映像 10点
音楽 10点
---合計50点(満点)---

TVアニメ、劇場公開の外伝と続いたシリーズの完結作。「あいしてる」を知りたいと願った感情を持たない少女が、代筆という仕事を通して愛を知り、自分の抱く愛の感情に気付き、愛を伝え、そして結ばれる。それまでは話の構成上、第三者の視点から描かれる事も多かったヴァイオレットが今作では話の中心となる。シリーズ完結作として、彼女が自らの想いを手紙で届ける今作は、珠玉のラブストーリーであると同時に、一人の女性の一代記であり、様々な「愛」の物語である。

まずは何と言ってもヴァイオレットとギルベルトの結末。見違えるほど感情豊かになったものの、相変わらず普段は淡々としているヴァイオレットが、ギルベルトが絡んだ途端に年頃の恋する乙女になって、感情を爆発させる姿がいじらしい。一方で、自制し、自戒する強い精神力を持ち、誠実で、優しさに溢れるギルベルトの抱く苦しみも痛いほど分かるだけに、何度観ても二人が終盤まですれ違う様子が辛い。しかしそれ故に彼らが再会し、結ばれるシーンの感動はひとしお。
そのラスト、ヴァイオレットが軍の病院で認めたギルベルトへの手紙と、彼女が彼へ"最後に"書いた手紙が空を舞って時を超えて交わり、ヴァイオレットがギルベルトに初めて出逢って抱き締めて貰った場面へと繋がりフェードアウトするという構成があまりに秀逸で、胸が震えた。ヴァイオレットがギルベルトの腕の中に戻って来られて本当に良かった。直後に上がる花火は、場面こそ違えど二人を祝福する意図もあるように感じた。観るたびに自然と目元が緩む素敵な演出である。

TVシリーズから時にナレーションの役割を担ってきたホッジンズ。ヴァイオレットの保護者役であり、ギルベルトの親友である彼が板挟みになる葛藤と、誰よりも二人の幸せを願う様子がリアルで、感情移入せずにはいられない。
その他、TVからのレギュラーキャラクター達は服装や身のこなしなどに時の流れを感じさせる造形がなされているが、違いが顕著なのはディートフリート。声音が全体的に柔らかくなり、明らかに角が取れて丸くなった。ホッジンズには鼻につく物言いをすることもあるが以前ほどではないし、素直に謝る。弟を想い続けるヴァイオレットと、罪の意識に苛まれ彼女の想いに応えられないギルベルトに対しては優しさを見せる。他の相手(軍の人とか)に対してはどうなのか分からないけれど……年取ったな、お前……。

今作でヴァイオレットとギルベルトの展開と時に絡み合いつつ、それ一本として大きな柱であるユリスの物語。彼と、彼の家族と、リュカたちゲストキャラクターが非常に魅力的で、彼らを巡るエピソードはヴァイオレットの成長譚としてのシリーズの終着点を描き出すと共に、本作を単なる恋物語だけに留めず、様々な愛の形で彩っている。そしてそれはTVシリーズからのレギュラー陣にも言えることで、家族愛や友情、親愛といった「愛」が作品全体を包み込んでいる。

更に、語り部としてデイジーがヴァイオレットの軌跡を一代記として纏め上げると共に、彼女自身の愛を以て、誰の心にも宿る「愛」は時代を超えて不変であり普遍であるという作品全体に係るメッセージで物語にピリオドを打つ。「あいしてる」の一言から広がり、こんなにもテーマが一貫していて、美しく纏め上げられた物語を私は他に知らない。全てはこのラストを迎える為に、このひと言を伝える為にあったのだ。監督と、脚本家の手腕の何と見事なことか。

無論、作品を成り立たせているのは彼らだけではない。キャラクターに命を吹き込む声優陣の熱演に、緻密な描き込みや光と影の技で魅せる映像に、物語に寄り添って創り上げられた音楽、劇伴。全てが素晴らしく、一つ欠けたらこの完成度にはなり得なかっただろう。 

まさに、どこを切り取っても「素晴らしい」の一言である。この作品に出逢えたことはわたしの生涯の財産である。心から、ありがとう。ずっとずっと、愛していきます。


※鑑賞日は初回。以後2021年3月11日迄に合計で47回観ました。どハマりしていたとはいえ凄い数だ(笑)。
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