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オオカミの家のCUのレビュー・感想・評価

オオカミの家(2018年製作の映画)
4.0
マリアの耳には、「マリーアー」と自分を呼ぶオオカミの声がずっと聴こえている。

近くにいないはずのオオカミの声が、まるですぐ側で聴こえるのは、マリアの心が心底コロニーの価値観に支配されているため。

物理的に身体は逃げられても、一度支配されてしまった心はどこまで逃げても逃げられない。コロニー、ないしはコロニーの支配者による価値観を、心がすでに内在化させてしまっているからだ。

さて、ブタを逃した罪を回避するためにコロニーを脱走したマリアだったが、彼女は果たして「マリーアー」と呼ぶオオカミから逃げ切ることは出来なかった。

一時は自立した生活が送れそうだったが、最終的にマリア自身がオオカミの支配下に戻ることを選択した。そうすれば、分かりきった世界で安心して生きていける。ブタ達に食べられそうになることもないし、未知の出来事に遭遇することもない。

オオカミはマリアに「ぐっすりおやすみ」と言う。目を覚ましかけたマリアを再び眠らせる。それは目を覚さなければ、コロニーで安心、安全に生きていけるよという意味である。

この作品の背景にはチリ南部で活動していたコロニア・ディグニダというコミューンが存在するが、大なり小なり集団とはそういうものだろう。支配者が集団を統治してコントロールするためには、人々を眠らせておく必要がある。目を覚されるのは厄介なのだ。そう、世界各国、どの国も同じ。日本という国もまた然り。

エンドロールに流れる曲の歌詞がそれを正しく歌っている。そして、最後の最後、観ている我々に作品は問いかける。何を問いかけられるかは、是非映画を観てチェックして下さいませ。恐怖!
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