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すべて、至るところにあるのCUのレビュー・感想・評価

すべて、至るところにある(2023年製作の映画)
3.9
バルカン半島を舞台に主人公のエヴァが、かつて一緒に映画を制作した行方不明の友人ジェイを探す作品。

セルビアにいる共通の知人から預かった彼のUSBやHDDのデータを元に、ジェイの足取りを辿りながらバルカン半島を旅するエヴァ。彼がボスニアにいるという情報を得て、モスタルという街を訪れる。そこである1人のアジア人女性にエヴァは出会うのだった…


リム監督の作品には台本がないらしいのだけど、台本がないからこそのまとまりの無さがとても良かった。とは言え、言いたいことが伝わらないわけではなく、ジェイの足跡を追うようにしてエヴァが旅する道程には、「すべて、至るところ」にジェイがいるように感じられたし、エヴァがジェイを探す時間のすべてがジェイだったように思えた。

そして、そのような時間を経て、最後にエヴァがジェイについて思う一言。これが、秀逸。見つからないジェイを忘れるのではなく、ジェイが目の前にいた時よりも彼を自分の中に吸収するかのように感じることを表現する一言が出てくるのだが、その一言にたどり着くためには、ジェイを探しジェイについて考える、あの長い時間が必要であることをこの作品は示している。

可愛がっていた猫や犬がなくなり、最初は悲しんでいたけれど、時間がたつうちに悲しみは薄れ、でもその猫や犬のことを忘れるわけではなく、いつだって思い出せる、いつだって自分の中に生き続けるという、あの感覚。少し伝わりづらいかもしれないけれど、その感覚とかなり似ていると思う。

存在、喪失、時間。台本がないわりに、かなり哲学的でなかなか興味深い作品だった。ちなみにバルカン半島三部作の三作目らしいのだけど、他の二作も是非観てみたい。きっと面白いだろうな。
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