Zhivago

赤い闇 スターリンの冷たい大地でのZhivagoのレビュー・感想・評価

4.7
国際経済学の授業の題材にしても良いような秀作。
ひょんな動機からウクライナ飢饉を眼にしそれを報道しようとする物語。ウクライナ飢饉のことは知らなかった。無知とは恥ずかしい。これをきっかけに当時のロシア、ソ連の農業と産業の実態を学ぶことができた。
スターリニズムの圧政をセンセーショナルに描いているようで、実は当時のイギリスやアメリカがソ連経済を必要としていた事実も並行してしっかり描いている。
世界恐慌を引きずる先進国は、新たに重工業中心に経済勃興しようとするスターリンのソ連を必要としていた。そしてスターリンのソ連も社会主義経済の成功のため、自分の政権維持のため、貿易相手国を必要としていた。それが飢饉下での大量餓死者を犠牲にした。
表面的にはスターリニズムの悲劇のようだが、資本主義先進国の経済政策の犠牲になったとも言える。

この題材を過去のことにはできない。なぜなら同じことがこの20年間の中国に置き換えて起きているからだ。先進国は経済失敗、日本はバブル崩壊と失われた20年、欧州は統一経済の成功、のため、中国経済を利用してきた。
21世紀になっても我々は同じ轍を踏んではいないか。

この作品を単にスターリニズムへの批判、ジャーナリズムへの讃歌、ウクライナ飢饉への共感だけで済ませてしまうとしたらそれはもったいない。

少なくとも社会科学系を学ぶ大学生なら、本作を観てレポートぐらいは書けないといけない。そんな良質な作品だ。
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