垂直落下式サミング

ヒトラーを殺し、その後ビッグフットを殺した男の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

3.5
変なタイトルで、そのタイトルのまんまの変な映画なのに、なかなか好き。普遍的な物語の型通りだからかな。過去の後悔に蝕まれるのを恐れながら生きている男は、まったく別の試練に直面しそれを乗り越えることで、自分の人生の意義を取り戻していく。王道のオールドスタイル。
アクション映画としても、車を盗もうとしたゴロツキをノーダメでボコるのがいい感じではある。100ドルの宝くじ、しわしわのお札、ホモセクシュアルな意味でハラハラする髭剃りシーン、年の離れた弟の理髪店、第二次大戦を戦ったレジェンド軍神の昔ばなしを聞けて、ちょっと嬉しそうなFBI捜査官、学校の戦争ごっこで起こった子供の揉め事のはなしをしながら、夜の町をふたり出歩く男女。好きなエピソードはたくさんあった。
ビッグフットという名の祟り神に対抗するため、後悔に満ちた人生をおくりながら世界を呪って生きてきた男を引っ張り出してくるのは、陰陽道的な観点から言っても呪い返しになっているので最適な人選だと思う。カナダの山はいろんな動物がたくさんいて嬉しい。ヘラジカ、フクロウ、ビッグフット!
ストーリーは、僕の苦手な何回も何回も小刻みに過去に戻りまくるやつ。回想で時系列が錯綜するのは、やっぱ好きじゃなかったので、独自にパズルを組み直して解釈した。若い頃の顛末をイッキにやったあと、心の傷を負った孤独な老人の顔にジャンプカットする二幕構成のほうが僕好み。
この老人がどんな人なのか、全部みせたあとにビッグフット討伐に駆り出されることで、暴力と後悔に生きてきた自身の人生が無意味でなかったことを実感する流れのほうがおはなしとして綺麗だから、回想は最小限でいいと思うんだけどな。
だいたい、暮らしぶりをみれば昔のガールフレンドとは上手くいかなかったことくらいわかるんだから、最後まで伏せておく意味のないカードはさっさと開示していいはずだぞ。
ラストは気に入りました。靴のなかに入っていた小石がとれることで解呪を表現。どれだけ未練がましくみえたとしても、やっぱり過去は手放せないものだけど、それを持ちながらでも明日は生きられますよと。
カメラが上に上がっていって、主人公が背を向けて去っていくと、無条件で締まったような感じがして、それなりにいい映画を見終えたような気分になる。
ビッグフットの自演乙パンチに笑ってしまった。あれはストレス解消にいい。