りょう

Winnyのりょうのレビュー・感想・評価

Winny(2023年製作の映画)
3.6
 Winnyが話題になりはじめた当時、とりわけPCがウィルス感染するとか情報漏洩するとかで職場の幹部たちが大騒ぎしていました。とても浅はかな判断で“危機管理”だとかを大義に職場を混乱させていた記憶があります。
 主人公の金子氏が最高裁で無罪になったという結末を知っていたし、映画っぽい演出が少ない印象ですが、その背景が丁寧に描かれているので、とても興味深い作品でした。刑事裁判や冤罪をテーマにした作品はたくさんありますが、ほとんどが殺人事件ばかりで、著作権法違反(しかも幇助)の裁判なんか、そもそも映画にする要素をイメージできませんでした。弁護側の尋問の最中に彼がプログラム修正を始めてしまうところとか、申述書にある「満えん」(蔓延)の記述で警察の嘘を立証するシーンは秀逸です。
 最高裁の判決文まで精査していませんが、これがまるっきりの無罪でいいのか…、かなり賛否あると思います。彼の動機が構成要件に該当しないとしても、脆弱性を残したままのコンピュータプログラムを検証もしないまま公開し、実際に著作権侵害という被害を招いてしまったことは、技術者として軽率だし、その責任は免れないはずです。一方で、誰かを処罰しなければいけないという発想の警察や検察のシナリオは、ほとんど冤罪の温床にしかなりません。最近では大川原化工機事件なんかもあって、この事件との類似性を感じました。国際的にも批判されている“人質司法”(自白するまで保釈されないような長期勾留)は是正されなければいけません。
 金子氏の人柄までは知らなかったので、こんなにピュア(というか天然)で人文系にめっきり疎かったとは驚きです。それが裁判をこじらせる原因だったようですが…。もっと頭脳明晰なキレる人物だと思っていました。彼のような特殊な人材が潜在化しているのなら、ニューロ・ダイバーシティの概念が定着しないと、隠れた才能を無駄にしてしまいます。2003年の当時は、コンピュータプログラムはもとより、彼の特性を誰も理解していなかったのかもしれません。その意味でも彼は犠牲者の1人だったはずです。
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