亘

少年の君の亘のレビュー・感想・評価

少年の君(2019年製作の映画)
3.8
【まだ若い君】
中国の地方都市。進学校に通うニェンはいじめを苦に自殺した同級生のかわりにいじめの標的になってしまう。そんな時不良少年シャオベイを救ったことから彼に助けを求めることになる。次第にシャオベイに恋心を寄せる一方でいじめっ子グループからはマークされ続け大学受験も近づく。

いじめ問題メインテーマに描いた作品。ニェンに向けられるいじめの描写は陰惨に描かれていて目を覆いたくなるほどだった。一方で本作はそのほかの中国の社会問題についても問題提起していると思う。例えば経済格差問題。いじめっ子の女子が金持ちなのに対してニェンの家は貧乏。シャオベイの住むあばら家のロケーションは高層ビルの下でまさに経済格差を象徴している。また過酷な受験戦争・学歴社会も背景にはあって、おそらくいじめっ子の少女は金持ちの親から教育費をかけられて過大な期待もかけられているストレスから非行やいじめに走ったんじゃないかとも思う。いじめ問題は昔からあると思うけれど、題材としてはそういったことを描きたかったんじゃないかと思う。

[出会い]
チェン・ニェンは優等生だったが家は貧乏だった。母親は借金取りから追われ娘の学費を稼ぐために出稼ぎで偽物の化粧品を販売していた。ある日同級生がいじめを苦に自殺し、代わりに彼女がいじめの標的となってしまう。そんなある日学校帰りに不良たちの喧嘩を通報したことがきっかけでシャオベイと出会う。とはいえ優等生のニェンは不良のシャオベイを見下して受け付けないのだった。

[接近]
ある日ニェンがいじめっ子から追われ、さらには刑事にも頼れなくなるとシャオベイの家へと逃げ込む。そしてニェンの登下校時にはシャオベイが尾行して見守り、シャオベイはいじめっ子たちを脅すことでニェンを守り続け2人はニェンの大学進学と共に北京へ行こうと話し始める。
2人の同居のきっかけとなるいじめのシーンは、完遂はされなかったけれども、もし捕まっていたらとてもおぞましい事態になっていただろうと思う。またここでポイントになるのは、「大人が頼れない」ということだろう。担任の先生はいじめっ子たちに処分を下しつつも受験はさせたいというし、刑事は重要な時に来ない。"優等生"としてはそうした大人たちを頼るべきなのだろうが、頼れるのはシャオベイしかいないのだ。

[楽園の終わり]
シャオベイが不在の日に、ニェンは待ち受けていたいじめっ子グループから最も壮絶ないじめを受ける。殴られただけでなく服を脱がされ、髪を切られる様子を動画撮影されたのだ。さらにその後高考(統一試験)の日にいじめっ子が遺体で見つかったことから事態は一転。ニェンとシャオベイは容疑者となる。
本作の中で最も悲惨ないじめシーンから徐々に2人の楽園が変わっていく。そして表面的には"優等生"のニェンが警察と対立するような展開となる。ここで見せられるのは2人の愛の強さ。特にシャオベイと泣きながら2人で坊主になるシーンは、本作の中でもハイライトになるシーン。「君は世界を守れ、俺は君を守る」とシャオベイの力強いセリフもあり、壮絶ないじめを経験しさらなる困難を前にしているからこそ2人の絆がより強まっているように思う。2人での楽しい時間には影が差しているけれど、2人の愛の強さを見せたパートだろう。

[新しい未来]
2人の思い通りに事が進むように見えたが、そこから事件の真相が明らかになると2人のプランは崩れる。そしてニェンは自分自身に向き合い語学学校講師としてささやかな新たなスタートを切るのだった。まるで嵐の後のような激動のシーンからは打って変わって静かなシーン。それでも俯いた子に声をかけて一緒に帰るラストシーンは、ニェンだからこそのシーンで、またニェンとシャオベイの楽しかったころを表しているようで心温かくなった。
いじめに受験に恋愛にサスペンスと様々な要素が盛り込まれてどのように終わらせるのか気になっていたけれども内容としてはきれいにまとめられていたと思う。そして"This used to be a playglound(ここはかつては遊び場だった)"という文は、いじめによって学校の楽しさが失われていることを表して、いじめ問題を改めて提起しているんじゃないかと思う。そしてラストシーンの3人で歩くショットも印象的で、あの少女の未来はニェンたちによって守られるんだろうと思う。

とはいえ本作は終盤ちょっと失速したように感じる。刑事による説得は強引で少し卑怯だと思うしその後の展開は少し冗長に感じた。またエンドロールでのビデオメッセージも現在の完全状況を示すには良いけど、余韻を打ち消してしまったと思う。そうした政治的正しさ的な部分が少しくどかったかもしれない。

印象に残ったセリフ:「君は世界を守れ、俺は君を守る」
印象に残ったシーン:2人が泣きながら坊主になるシーン。
亘